理事・修繕委員になったら知りたい役割
調べる人、提案する人、決める人。理事や修繕委員を引き受けたら、肩書きよりも「どこまで任されているか」を先に確かめます。標準管理規約をもとに、役職ごとの仕事と記録の残し方を整理しました。
この記事の要点
- 01役職ごとの権限は管理規約と総会決議が根拠
- 02修繕委員会は調べて具申する、決めるのは総会
- 03利害関係のある理事は議決に加わらない
- 04検討の経過と理由を組合の記録として残す
この記事の目次

役職ごとに、任されていることは違う
国土交通省の標準管理規約(令和7年10月改正)では、管理組合の役員として理事長、副理事長、会計担当理事、理事、監事を置きます。理事と監事は総会の決議で選ばれ、理事長・副理事長・会計担当理事は理事の中から理事会の決議で選ばれます。自分のマンションの規約で人数や任期、選び方を確認してください。
| 役職 | 主な役割(標準管理規約) | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 理事長 | 組合を代表し業務を統括。区分所有法上の管理者。通常総会で前年度の業務を報告 | 一定期間ごとに職務の執行状況を理事会へ報告する。組合と利益が相反する事項では代表権がない |
| 副理事長 | 理事長を補佐し、事故があるときは代理する | 理事長不在時の判断範囲を事前に確認 |
| 会計担当理事 | 管理費等の収納、保管、運用、支出などの会計業務 | 管理費会計と修繕積立金会計を分けて見る |
| 理事 | 理事会を構成し、定められた業務を担当 | 担当分野(広報・防災・修繕など)を明確に |
| 監事 | 業務の執行と財産の状況を監査し、総会に報告 | 理事会に出席し、必要なら意見を述べる。不正を認めれば臨時総会を招集できる |
監事は理事会のメンバーではありませんが、理事会に出席して意見を述べなければならないとされています。「監事は決算書に判を押すだけ」と思われがちですが、規約上は業務全体をチェックする役割です。
会計担当理事が毎月見ておきたい数字
会計担当になったら、管理会社から届く月次の報告書で、少なくとも3つの数字を追いかけます。1つ目は管理費等の収納状況と滞納の有無です。国土交通省「マンション総合調査」(令和5年度)では、3か月以上の滞納住戸があるマンションは30.1%で、早めの督促が回収の鍵になります。2つ目は支出の予算に対する進み具合、3つ目は修繕積立金会計の残高です。前年同月と並べると変化に気づきやすくなります。

理事会で決められること、総会でしか決められないこと
理事会は何でも決められる場ではありません。標準管理規約第54条で理事会の決議事項とされているのは、主に総会に出す議案(収支決算案・予算案、規約変更案、長期修繕計画の作成・変更案など)、専有部分の修繕などの承認・不承認、規約違反への勧告や指示、総会から付託された事項などです。
| 内容 | 理事会 | 総会 |
|---|---|---|
| 予算・決算 | 案をつくる | 承認する |
| 長期修繕計画 | 作成・変更の案をつくる | 作成・変更を決める |
| 修繕積立金の取崩し | 議案として提案する | 決める |
| 住戸のリフォーム申請 | 承認・不承認を決める | — |
| 理事長・会計担当理事の選任 | 理事の中から選ぶ | 理事・監事を選ぶ |
| 災害時の応急的な修繕 | 総会開催が困難な場合に決議できる | — |
理事会の会議は理事の半数以上の出席で成立し、出席理事の過半数で決めます。決議について特別の利害関係を持つ理事は、議決に加われません。たとえば自分の勤め先や親族の会社が見積もりに参加している場合がこれに当たりえます。そうした関係は、議題に入る前に自分から申し出るのが原則です。
理事会の判断範囲はマンション理事会とは?役割・仕事と決めることでさらに詳しく扱っています。
修繕委員会は「調べて具申する」組織
大規模修繕の検討が始まると、理事会の下に修繕委員会などの専門委員会を置くことがあります。標準管理規約第55条では、専門委員会は理事会が「その責任と権限の範囲内において」設置し、特定の課題を調査・検討して、その結果を理事会に具申するものとされています。つまり委員会は調べて提案する組織で、決める組織ではありません。
国土交通省「マンション総合調査」(令和5年度)では、専門委員会を「設置していない」組合が52.5%でした。設置している組合では「大規模修繕や長期修繕計画に関する委員会」が86.7%と最も多くなっています。
委員会をつくるときに決めておきたいこと
- 目的と範囲「第2回大規模修繕の工事範囲と発注方式の検討」のように、何を検討するかを具体的に書きます。
- 権限業者との面談や現地調査への立ち会いはできるが、発注や契約はできない、といった線を引きます。
- 期限と報告いつまでに何を理事会へ具申するか、途中報告の頻度を決めます。
- 予算専門家への相談料など、委員会活動に使える費用の上限を決めます。
- 情報の扱い見積金額などの資料を誰が保管し、誰に共有するかを決めます。
これらを理事会の議事録に残しておくと、委員が入れ替わっても活動の根拠が明確になります。
委員の顔ぶれにも工夫の余地があります。理事が兼任すると理事会との連携はとりやすい一方、任期の交代で知識が途切れがちです。広報紙などで公募し、建築や経理の経験がある住民、若い世帯、高齢の世帯など立場の違う人が加わると、検討の偏りを防ぎやすくなります。大規模修繕は準備から完了まで数年かかることが多いため、委員の任期を理事の任期とずらして設定する組合もあります。
見積もりと発注の場面で、委員が意識したいこと
2026年9月28日、公正取引委員会は、関東地区のマンション管理組合が設計コンサルタントに委託して発注する大規模修繕工事について、施工業者らによる受注調整があったとして、独占禁止法に基づく排除措置命令と課徴金納付命令を行いました。公表資料では、受注予定者を事前に決め、他の業者は見積合わせに参加する形で調整していたと認定されています。
この件は特定の発注方式やすべての業者に問題があるという話ではありません。ただ、管理組合側が「複数社の見積もりを比べた」という形式だけで安心せず、手続きの中身を確かめる必要があることを示しています。修繕委員や理事が確認できる点は、実はたくさんあります。
- 見積もりに参加する業者を、誰がどういう基準で選んだか
- 設計コンサルタントや管理会社と、参加業者との間に資本・取引関係がないか
- 見積もりの条件(工事範囲・仕様・数量)が全社同じか
- 各社の見積額の差の理由を、項目ごとに説明できるか
- 理事・委員に利害関係のある人がいないか、申告してもらったか
理事会で聞くなら「参加業者の選定理由と、各社への依頼文を見せてください」「最安値の会社と最高値の会社の差は、どの工事項目で生じていますか」といった形が具体的です。発注の仕組みそのものにも目を向けておきます。設計事務所などが調査・設計と工事監理を担う「設計監理方式」と、施工会社が設計から施工までを一括して担う「責任施工方式」では、見積もりをチェックする人の立場が異なります。どちらの方式でも、チェック役が施工側から独立しているかを確かめることが大切です。違いは管理会社・施工会社・設計監理の違いで整理しています。相見積もりの進め方は相見積もりの取り方、発注時の注意点は修繕工事の発注で知っておきたい注意点で詳しく解説しています。
次の人に引き継げる形で残す
役員の任期は規約で定められ、いずれ次の人に交代します。検討の途中で交代しても話が止まらないように、記録は個人のパソコンやメールではなく、組合として受け渡せる形で残しておきます。標準管理規約では理事会にも議事録の作成が求められ、理事会で使った資料も総会資料と同様に保管・閲覧の対象です。
| 残すもの | 書いておくこと |
|---|---|
| 面談・問い合わせの記録 | 日付、相手、質問と回答、回答の根拠資料 |
| 比較表 | 比べた条件、各社の金額と差の理由、未確認の点 |
| 決定の理由 | 採用した案と、採らなかった案を外した理由 |
| 残った課題 | 次の理事会・次期役員に引き継ぐ事項と期限 |
令和7年の標準管理規約改正では、区分所有者ではない者が役員や専門委員になりすまし、組合の財産を狙う事案が起きたことを踏まえ、就任時の本人確認についての考え方がコメントに加えられました。通帳や印鑑、ネットバンキングの権限の引き継ぎは、複数の役員が立ち会って記録に残すと安心です。
引き継ぎの場で確認したいこと
新旧役員が顔を合わせる引き継ぎ会では、「今期に決まらなかったことは何か」「管理会社や業者と約束している期限はあるか」「住民から受けている苦情や要望で未回答のものはあるか」の3点を必ず聞いてください。資料の束を受け取るだけでは、この3つは見えてきません。答えを議事録や引き継ぎメモに1行ずつ残せば、次の期の最初の議題がそのまま決まります。
1年目の理事・委員の過ごし方
最初から全部を理解しようとすると疲れてしまいます。任期1年目は、次のような順番で「わかる範囲」を広げていくと無理がありません。
- 最初の1か月管理規約の役員・理事会・総会の条文、前年度の総会議案書と議事録、引き継ぎメモを読みます。
- 3か月まで管理委託契約書で管理会社に任せている業務を確認し、年間予算と決算の主な項目を把握します。
- 半年まで長期修繕計画の次の工事予定と修繕積立金の残高を並べ、課題を理事会で共有します。
- 総会の前事業報告と次年度の計画に、自分の担当分の経過と残課題を書き込みます。
最初の理事会で何をするかははじめての理事会、何から始める?、年間の段取りは理事会の年間スケジュールをつくるを参考にしてください。
住民への説明も、役員の大事な仕事
理事会や委員会でどれだけ丁寧に検討しても、住民に伝わらなければ総会で賛成は得られません。令和5年度のマンション総合調査で、管理の現状に不満がある区分所有者にその理由を尋ねると、「一部の居住者の協力が得られにくいので」が56.4%で最も多く、「管理組合役員が不慣れなので」も24.2%ありました。
説明のコツは、結論だけでなく「なぜ今なのか」「ほかにどんな案を比べたのか」「決めなかった場合に何が起きるのか」をセットにすることです。広報紙や掲示で検討の途中経過を早めに出し、総会の前に説明会を開くと、当日の質疑が建設的になります。質問に即答できないときは「確認して、いつまでに回答します」と期限を示して記録すれば十分です。
合意づくりの進め方は住民の意見を、どうまとめる?、工事中の住民対応は大規模修繕中の生活と、住民への伝え方で詳しく扱っています。
役を引き受けたら確認したい8項目
| 任命の根拠 | 総会・理事会のどの決議で選ばれたか、任期はいつまでか |
|---|---|
| 担当範囲 | 自分の担当分野と、決めてよいこと・報告だけすること |
| 報告先 | 誰に、どの頻度で、どの形式で報告するか |
| 理事会の決議事項 | 規約第54条相当の条文と、総会決議が必要な事項 |
| 専門委員会の設置決議 | 目的・権限・期限・予算が議事録に書かれているか |
| 利害関係 | 自分や家族と、見積もり参加業者などとの関係の有無 |
| 記録の保管場所 | 議事録・比較表・資料を組合として保管する場所 |
| お金の権限 | 通帳・印鑑・ネットバンキングの管理者と承認の流れ |
項目の多くは、前任者の引き継ぎ資料と管理規約で確認できます。書かれていないことが見つかったら、それ自体を理事会の議題にして、次の人のために決めておく価値があります。
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よくある質問
理事会の議事録は、住民に公開するものですか?
標準管理規約では、理事会の議事録も総会の議事録の規定を準用して保管され、組合員や利害関係人から書面などで請求があれば閲覧させなければなりません。掲示や配布まで行うかは組合ごとの運用です。個人情報に配慮しつつ、要旨を広報紙で知らせる組合もあります。
修繕委員会だけで業者を決めてよいですか?
標準管理規約では、専門委員会は調査・検討の結果を理事会に具申する組織で、業者の選定や契約を決める権限はありません。工事の実施や予算は総会の決議事項です。委員会の設置決議でどこまで任されたかを確認し、提案と正式な決定を分けて扱ってください。
専門知識がないのに修繕委員になって大丈夫ですか?
委員に求められるのは専門的な判断そのものより、住民の立場で疑問を出し、説明を求め、記録することです。技術的な判断が必要な場面では、建築士やマンション管理士など外部の専門家の助言を受ける方法があります。その費用も含めて理事会に相談しましょう。
理事の親族が経営する会社に工事を頼むのは問題ですか?
直ちに禁止されるわけではありません。標準管理規約では、役員が利益相反取引をしようとするときは理事会で重要な事実を開示して承認を受け、その理事は議決に加わらないとされています。他社と同じ条件で比べ、経緯を記録したうえで、判断に迷う場合は弁護士やマンション管理士に相談してください。
任期途中で役員を辞めたくなったらどうなりますか?
標準管理規約では、任期満了や辞任で退任する役員は、後任が就任するまで引き続き職務を行うとされています。補欠の役員の任期は前任者の残りの期間です。辞任の手続きは規約によって異なるため、理事長と早めに相談し、担当業務の引き継ぎ内容を書面で残しておくと混乱が少なくなります。
出典・参考資料
- 国土交通省|マンション標準管理規約(令和7年10月17日改正) ↗
- 国土交通省|令和5年度マンション総合調査 ↗
- 公正取引委員会|関東地区所在のマンションの大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令等(令和8年9月28日) ↗
- e-Gov法令検索|建物の区分所有等に関する法律 ↗
- 国土交通省|マンション管理(各種ガイドライン・標準管理規約等) ↗
写真:Photo by Hat Trick on Unsplash、Photo by Sammy Xu on Unsplash
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