相見積もりの取り方
相見積もりは、値下げを迫るための手段ではなく、同じ条件で各社の提案を比べるための仕組みです。見積要項のつくり方、候補の集め方、予算や質疑の情報管理、開封と一覧化まで、手順に沿って解説します。
この記事の要点
- 01見積要項で工事範囲・仕様・様式・期限をそろえる
- 02候補の集め方と辞退の経緯を記録に残す
- 03予算額や参加社名は伝えず、質疑は全社に共有する
- 04開封は複数人で行い、内訳の差を一覧にする
この記事の目次

相見積もりは「安くさせる」ためのものではない
相見積もりというと、他社の金額を材料に値下げを迫る場面を思い浮かべる人もいるかもしれません。けれども大規模修繕で大切なのは、各社が同じ工事について見積もっているかどうかです。範囲や仕様がそろっていなければ、安い見積もりは「安い」のではなく「別の工事」を見積もっているだけかもしれません。
2026年9月28日に公正取引委員会が命令を出した関東地区の事案では、設計コンサル業者と施工業者が工事ごとに受注予定者を決め、ほかの施工業者は受注予定者側から連絡された見積価格を管理組合に提示するか、見積り合わせに参加しないという行為が認定されました。形のうえでは複数社から見積もりを取っていても、競争が働いていなかったことになります。

相見積もりを意味のあるものにするには、条件をそろえることと、その過程を管理組合自身が把握していることの二つが欠かせません。この記事では、その具体的な手順を順に見ていきます。
発注方式によって、何を比べるかが変わる
設計監理方式では、設計コンサルタントがつくった同じ仕様書・数量書に対して各社が値段をつけるため、比べるのは主に単価と諸経費、そして施工体制です。一方、責任施工方式で複数社に調査から提案まで求める場合は、工事範囲や仕様そのものが会社ごとに違ってきます。この場合は、提案内容を比べる段階と、条件をそろえて価格を比べる段階を分けると整理しやすくなります。
どちらの方式でも、「何を比べるのか」を理事会で言葉にしておかないと、最後は総額の大小だけで判断することになりがちです。
相見積もりの前後に何を決めておくかは、大規模修繕工事の全体像をまとめた記事の「工事の流れ」と「業者の選び方」の項目もあわせて確認してください。
見積要項に書くことを、先に決めておく
見積要項(見積依頼書)は、各社に同じ前提で見積もってもらうための「問題用紙」です。設計監理方式なら設計コンサルタントが仕様書や数量書を用意し、責任施工方式なら管理組合が各社に提案を求める形になります。どちらでも、次の項目は書面で示しておきたいところです。
| 項目 | 書いておく内容 |
|---|---|
| 工事範囲 | 対象の部位(外壁、屋上防水、バルコニー、鉄部、設備など)と、今回は対象外とする部位 |
| 仕様・数量 | 材料や工法の指定、数量書の有無。足場を組んでから確定する補修数量は、単価で精算する旨も書く |
| 提出書類と様式 | 見積書の内訳様式(項目の並び・単位)、工程表、施工体制、実績、許可・保険の写し |
| 日程 | 現場説明の日時、質問の締切、回答日、見積書の提出期限と提出方法 |
| 質疑の方法 | 質問は書面(メール可)で受け付け、回答は参加者全員に同じ内容で送ること |
| 評価の考え方 | 金額だけで決めないこと、ヒアリングを行うこと、評価項目の概要 |
| 遵守事項 | 他の参加者との連絡や見積価格の調整をしないこと、関係者との利害関係の申告 |
内訳様式をそろえておくと、後で比較表を作る手間が大きく減ります。国交省の平成29年通知が求めている法定福利費の内訳明示も、様式の段階で欄を設けておくと漏れがありません。見積書そのものの読み方は見積書の見方を参照してください。
見積期間を短く設定しすぎないことも大切です。現地調査や数量の確認に十分な時間がないと、各社は安全側に見て金額を上乗せするか、逆に確認不足のまま見積もることになり、どちらも比較をゆがめます。
候補の会社をどこから集めるか
候補の集め方には、業界紙やウェブでの公募、他の管理組合や専門家からの紹介、管理組合による指名などがあります。どれか一つが正解というより、入口を一つに頼らないことが大切です。
国交省が平成29年1月の通知で紹介した取組事例では、施工会社を専門紙で公募し、5社に現場を案内したうえで、見積金額・実績・工事内容・会社規模・アフターケアなどを勘案して1社に絞り、臨時総会で承認した組合がありました。設計会社の選定でも、公募と紹介で集めた13社のうち5社と役員が個別に面談し、3社に絞ったうえで理事会の投票を重ねて決めた例が挙げられています。
応募条件は、公募の前に決める
公募する場合は、建設業許可の業種、同規模の実績、大規模修繕工事瑕疵保険の利用可否といった応募条件を先に示します。応募が集まってから条件を決めると、特定の会社を入れる・外すための条件づくりに見えてしまいます。
紹介や指名で候補を加えるとき
理事や管理会社、コンサルタントの紹介で候補を加えることもあるでしょう。その場合は、誰の紹介なのか、紹介者と会社の間に取引や報酬の関係がないかを理事会の記録に残します。紹介された会社にも、公募の会社と同じ要項・同じ期限で見積もってもらうことが前提です。
予算額・参加社名・質疑の扱いで、公正さが決まる
相見積もりの公正さを左右するのは、実は手順より情報の流れです。公取委の公表資料では、設計コンサル業者が業務の過程で入手した「設計予算」(管理組合が決める発注予定金額)などの情報を受注予定者側に提供していたことが、違反行為の一部として示されています。
守りたい3つの情報
- 予算額:参加する会社には伝えません。理事会の中でも、知る人の範囲を決めておきます。
- 参加社名:誰が参加しているかを他の参加者に知らせないようにします。現場説明会を合同で行う場合は、名簿の扱いに注意します。
- 質疑の内容:ある会社の質問への回答が見積条件に関わるなら、同じ回答を全社に送ります。個別に条件を変えないことが原則です。
設計コンサルタントに実務を任せている場合も、「誰に、いつ、どんな資料を送ったか」の記録を管理組合に提出してもらうよう、最初に取り決めておくと安心です。
現場説明会の運営で気をつけたいこと
現場説明会は、各社が建物を見て数量や施工条件を確かめる大切な機会です。合同で行うと効率的ですが、参加者どうしが顔を合わせることになります。気になる場合は、日時をずらして個別に案内する方法もあります。どちらの方式でも、説明する内容と配る資料は全社同じにし、当日出た質問は後日書面で全社に回答します。
見積書が届いたら、開封から一覧化までを記録する
- 受領を記録する提出日時と提出方法を記録し、期限後の提出をどう扱うかは要項どおりに運用します。
- 複数人で開封する理事長一人ではなく、理事や監事など複数人が立ち会い、開封した事実を議事録に残します。
- 総額と内訳を一覧にする総額だけでなく、仮設、下地補修、シーリング、塗装、防水、諸経費など大項目ごとに並べます。
- 差の大きい項目に質問する数量が違うのか、単価が違うのか、仕様が違うのかを書面で問い合わせます。
- 必要なら条件をそろえて再見積もり要項のあいまいさが原因なら、全社に同じ補足を出して見積もり直してもらいます。
国交省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、総工事金額の内訳は建築系工事が60.3%、仮設工事が22.8%、諸経費が10.3%でした。自分たちの見積もりで仮設や諸経費の割合が大きく違う場合は、理由を聞いてみる手がかりになります。比較のしかたは見積もりを比較するポイントで詳しく扱っています。
| 一覧表の列 | 入れておく情報 |
|---|---|
| 総額 | 税抜・税込の別をそろえ、値引きの表記も分けて記載 |
| 大項目ごとの金額 | 仮設、下地補修、シーリング、塗装、防水、設備、諸経費 |
| 数量の差 | 要項の数量と違う場合、その理由 |
| 要項との相違 | 仕様の読み替え、除外された工事、条件付きの項目 |
| 回答待ち | 質問中の事項と回答期限 |
気になる並び方に気づいたら
辞退が続く、見積額が不自然に近い、ある会社だけが要項と違う前提で出している。こうした状況は、それだけで不正を意味するものではありません。ただ、理由を確かめずに先へ進むのは避けたいところです。辞退理由を書面で尋ね、必要なら国交省が案内する住まいるダイヤルやマンション管理センターの相談窓口に意見を求めてください。
「今回辞退された会社について、辞退の理由を書面でいただけますか」「この2社の見積もりで金額差が小さい項目と大きい項目を、内訳ごとに説明してください」「候補の会社を選んだ基準と、ほかに検討した会社があれば教えてください」
いずれも相手を疑う言い方ではなく、管理組合として総会で説明するために必要な情報を求める聞き方です。記録に残る書面でもらうことで、次の理事会にも引き継げます。
想定例:辞退が続いたとき、理事会はどう動いたか
この想定例のポイントは、誰かを疑って責めるのではなく、手続きを広げて比較の土台をつくり直したことです。スケジュールは2か月ほど延びましたが、総会では「なぜこの会社なのか」を経緯とともに説明でき、住民の納得にもつながりました。
工期に余裕がない中で、同じことをするのは簡単ではありません。見積依頼の段階から、辞退が出た場合の追加方法を要項や理事会の方針に書いておくと、慌てずに済みます。
契約まで見据えて、談合への備えを入れておく
国土交通省は令和7年6月26日付の事務連絡で、マンション修繕工事の請負契約に、談合があった場合に受注者が違約金を支払う「談合違約金特約条項」を設けることが可能だと周知しました。2026年9月28日の周知文書でも、設計・監理方式を採用する場合の留意点とあわせてこの取組が紹介されています。
見積要項の段階で「契約時に談合違約金特約を付けることを予定している」と示しておけば、参加する会社も前提として理解したうえで見積もりを出せます。特約の設定では、国交省も弁護士など専門家への相談を勧めています。条項の中身は契約前に確認したいことで詳しく説明します。
あわせて、参加する各社から「他の参加者と見積価格の連絡・調整をしていない」旨の誓約書を提出してもらう方法もあります。誓約書だけで不正を防げるわけではありませんが、管理組合がこの点を重視しているというメッセージにはなります。
談合違約金特約の例文では、公取委の課徴金納付命令や排除措置命令が確定した場合などに、請負代金額の一定割合を違約金として支払う形が示されています。割合は空欄(○%)で、国の直轄工事の契約書では10分の1とされています。何%にするかは、専門家と相談して組合ごとに決めることになります。
相見積もりを始める前の確認リスト
| 見積要項 | 工事範囲・仕様・数量・様式・期限を書面にしたか |
|---|---|
| 内訳様式 | 項目の並びと単位をそろえ、法定福利費の欄を設けたか |
| 候補の入口 | 公募・紹介・指名を組み合わせ、経緯を記録したか |
| 応募条件 | 許可・実績・保険などの条件を公募前に決めたか |
| 予算額 | 参加者に伝えず、知る人の範囲を決めたか |
| 質疑 | 書面で受け、同じ回答を全社に送る運用か |
| 開封 | 複数人で立ち会い、議事録に残したか |
| 辞退 | 辞退した会社と理由を把握しているか |
| 契約の備え | 談合違約金特約の予定を要項で示したか |
相見積もりの記録は、総会での説明資料になるだけでなく、次の大規模修繕を担う理事への引き継ぎ資料にもなります。
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よくある質問
何社に依頼すればよいですか?
公的に決まった社数はありません。規模や発注方式によって適切な数は変わります。社数を増やすだけでなく、候補の入口が一者に偏っていないこと、比較できる資料がそろうこと、辞退の理由を把握できることを優先してください。
他社の見積額を伝えて値下げを頼んでもよいですか?
他社の金額を示して単純に値下げを迫ると、必要な工程や品質を削る方向に働くおそれがあります。差がある場合は、数量・単価・仕様のどこが違うのかを質問し、条件をそろえたうえで見積もり直してもらうほうが、比較の意味を保てます。
予算額を伝えないと、見積もりがばらつきませんか?
金額がばらつくこと自体は、各社の考え方の違いが表れた結果でもあります。予算額を伝えると、見積もりがその金額に寄っていくおそれがあります。ばらつきを抑えたいなら、予算ではなく工事範囲・仕様・数量をていねいに示すことが近道です。
管理会社にも見積もりを頼むべきですか?
管理会社やそのグループ会社が施工を請け負える場合は、候補の一つとして同じ要項で見積もりを依頼して構いません。ただし管理会社が選定の事務も担っているなら、自社を比べる立場になるため、比較表や評価を理事会や外部の専門家が直接確認できるようにしておきましょう。
コンサルタントに相見積もりの実務を任せてもよいですか?
国交省も、設計コンサルタントに工事業者の選定支援などを委託する設計・監理方式が広く採用されていると説明しています。ただし候補の選定理由、送付した資料、辞退の経緯などを管理組合に報告してもらう取り決めをしておきましょう。最終的な選定は管理組合が行い、判断の材料を理事会が直接見られる状態にしておくことが大切です。
出典・参考資料
- 公正取引委員会|関東地区所在のマンションの大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について(令和8年9月28日) ↗
- 国土交通省|マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について(令和8年9月28日) ↗
- 国土交通省|同上・周知文書(談合違約金特約条項に関する令和7年6月26日事務連絡を含む) ↗
- 国土交通省|設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(平成29年1月27日通知) ↗
- 国土交通省|令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査(概要) ↗
写真:Photo by Lucas Kepner on Unsplash、Photo by Dylan Gillis on Unsplash
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