住民の意見を、どうまとめる?
反対の声が大きい、そもそも意見が集まらない。どちらも理事会を悩ませます。困りごとの集め方、選択肢の並べ方、説明会での受け止め方、そして正式な決議へのつなぎ方まで、合意形成を4つの段階に分けて整理します。
この記事の要点
- 01反対意見は「費用・生活・情報・不信」に分けて考える
- 02選択肢には費用と影響、「やらない案」も並べる
- 03答えられない質問も台帳に載せて期限を示す
- 04アンケートの多数は判断材料。決定は正式な決議で
この記事の目次

「反対が多い」の中身を分解する
大規模修繕、機械式駐車場の見直し、ペットや民泊のルール――マンションの意思決定では、意見が割れるテーマがいくつもあります。「反対が多い」と感じたとき、まずやりたいのは、反対の中身を分けることです。同じ「反対」でも、理由によって必要な対応はまったく違います。
| 反対の理由 | よく聞く声 | 理事会ができること |
|---|---|---|
| 費用 | 「一時金は払えない」「積立金が上がるのは困る」 | 金額の根拠、分割や時期の選択肢を示す |
| 生活への影響 | 「工事中に在宅勤務ができない」「駐車場がなくなると困る」 | 影響の期間と範囲、代替策を具体的に示す |
| 情報不足 | 「なぜ今必要なのか分からない」 | 点検結果や写真など根拠資料を共有する |
| 不信 | 「管理会社の言いなりでは」「業者との関係は」 | 選定過程と比較資料を公開する |
もう一つ意識したいのは、声を上げていない人の存在です。国土交通省「令和5年度マンション総合調査」では、直近の通常総会に本人が出席した割合の平均は24.6%でした。総会や説明会で聞こえる声は、住民全体のごく一部です。同じ調査では、管理組合運営の将来への不安として「区分所有者の高齢化」(57.6%)、「居住者の高齢化」(46.1%)、「修繕積立金の不足」(39.6%)が上位に挙がっています。会場に来にくい人の意見をどう拾うかも、合意形成の大事な部分です。
意見の対立は、工事や費用の話だけで起こるわけではありません。同調査では、過去1年のトラブルとして「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」が60.5%と最も多く、その内容は「生活音」が43.6%で最多でした。ルールづくりのように住民同士の利害が直接ぶつかるテーマほど、次に述べる「困りごとから聞く」手順が効いてきます。
アンケートは「困りごと」から聞く
「○○工事に賛成ですか、反対ですか」といきなり解決案の賛否を聞くと、背景にある困りごとが見えなくなります。最初のアンケートでは、困っていること、その頻度や影響、希望を分けて聞くと、あとで選択肢をつくる材料になります。
| 避けたい聞き方 | 言い換えの例 |
|---|---|
| 老朽化した駐車場を撤去することに賛成ですか | 現在、駐車場を利用していますか。今後5年の利用予定はありますか |
| 安全のため防犯カメラの増設が必要だと思いませんか | 敷地内で不安を感じる場所や時間帯はありますか |
| 修繕積立金の値上げに協力いただけますか | 積立金の見直しについて、知りたい情報は何ですか(複数選択) |
左側のような聞き方は、答えを誘導しているように受け取られ、結果そのものへの信頼を損ないます。選択肢には「分からない」「その他(自由記述)」を必ず入れ、自由記述は個人が特定される部分を除いたうえで理事会で全件読みます。
回収率を上げる工夫
- 設問は10問程度、5分で答えられる分量にする
- 紙とウェブの両方で回答できるようにし、締め切りは2〜3週間後に設定する
- 賃貸に出している組合員には、届出先の住所へ郵送する
- 集計結果をいつ、どのように公開するかを最初に書いておく
集計結果は「数字」と「声」をセットで返す
集計結果を公開するときは、回収率を必ず添えます。「賛成60%」でも、回収率が40%なら、住民全体の24%にあたる声にすぎません。数字だけでなく、自由記述から代表的な意見を立場の違いが分かるように数件ずつ紹介すると、「自分の意見も届いた」と感じてもらいやすくなります。
記名式にするか無記名にするかは、目的によって変わります。住戸ごとの利用状況を把握したいなら記名、率直な意見を集めたいなら無記名が向いています。どちらにしても、個別の回答を理事以外に見せないことを明記しておきます。
選択肢には費用と影響、「やらない案」も並べる
困りごとが見えてきたら、選択肢を並べます。このとき、理事会が推したい案だけを示すと「結論ありき」と受け取られます。実施する案、別の方法、そして「今は実施しない案」を同じ表に並べ、費用、生活への影響、管理の負担、将来のリスクを比べられるようにします。
選択肢の比較表では、数字の出どころを必ず書きます。「管理会社の概算」「2社の見積もりの平均」など根拠が分かれば、数字そのものへの疑問に答えやすくなります。
2026年4月施行の改正区分所有法では、共用部分の設置・保存に瑕疵があり他人の権利を侵害するおそれがある場合などに、共用部分の変更を出席者の3分の2で決議できるようになりました。法務省の資料は、倒壊等のおそれのある立体駐車場を取り壊して平置きにする例を挙げています。どの要件で決議するかは事情によって異なるため、議案にする段階で専門家に確認してください。
「やらない案」は、何もしないという意味ではなく、「今回は見送り、○年後に再検討する」「当面は点検の頻度を上げる」といった具体的な中身を持たせると、比較の対象になります。
説明会では、質問を「台帳」で受け止める
説明会は、理事会が一方的に説明する場ではなく、住民の疑問を集める場でもあります。すべての質問にその場で答えようとすると、不正確な回答をしてしまったり、声の大きい人とのやり取りだけで時間が終わったりします。

- 開催は2回以上平日夜と休日昼など時間帯を変え、WEB参加や録画の共有も検討する。
- 冒頭で「今日決めないこと」を伝える説明会は決議の場ではないこと、正式な決定は総会で行うことを最初に説明する。
- 質問は台帳に記録質問ごとに番号を振り、「回答済み」「調査中(回答予定日)」「今回の対象外(理由)」に分ける。
- 回答は書面で全戸に説明会に来られなかった人も同じ情報を得られるよう、質問台帳の回答を配布・掲示する。
説明者を誰にするかも考えどころです。技術的な内容は設計事務所や施工会社に説明してもらい、理事会は「なぜこの案を検討しているのか」「どう決めるのか」を説明する、と役割を分けると、住民も質問の相手を選びやすくなります。管理会社が説明する場合も、理事会としての考えは理事の言葉で伝えるほうが、住民の受け止め方は変わります。
その場で使える言い回し
- 「大事なご指摘です。いまお答えできる根拠がないので、○月○日までに書面でお答えします」
- 「ご意見として台帳に記録しました。理事会で検討し、結果をお知らせします」
- 「個別のご事情については、説明会の後に別途お時間をいただけますか」
強い反対や個別の事情に、どう向き合うか
繰り返し強く反対する人がいると、理事会は「あの人さえ納得すれば」と考えがちです。けれど、一人の意見に合わせて計画を変えれば、別の住民から不公平だと受け取られることもあります。大切なのは、反対の理由を丁寧に聞き、全体の判断材料として記録することです。
個別の事情への配慮が必要な場合もあります。標準管理規約は、規約の変更が一部の組合員の権利に特別の影響を及ぼすときはその承諾を得なければならず(47条9項)、共用部分の変更が専有部分などの使用に特別の影響を及ぼすときも、その組合員の承諾が必要としています(47条10項)。どちらも、組合員は正当な理由がなければ拒否できないとされています。こうした場面では、全体の説明会とは別に、個別の面談の場を設けるのが現実的です。
- 高齢の組合員には、家族の同席や、資料を大きな文字で用意するなどの配慮をする
- 賃貸に出している組合員には、入居者への影響と連絡方法を個別に確認する
- 海外など遠方に住む組合員が国内管理人を選任している場合は、その管理人に連絡する
個別面談の内容は、日時・出席者・主な意見・理事会の回答を簡単に記録し、理事会で共有します。担当した理事だけが事情を知っている状態になると、任期の交代とともに経緯が失われてしまうためです。
改正法では、所在が分からない区分所有者を、裁判所の決定を得て決議の母数から除外できる制度も設けられました。連絡がとれない組合員がいる場合、この制度の対象になるかどうかは弁護士などの専門家に確認します。
アンケートの結果から、正式な決議へ
アンケートや説明会で多数の賛成が見えても、それは判断材料であって、正式な決定ではありません。決定は、規約と法律に定める手続き――理事会の決議や総会の決議――で行います。アンケートの結果を「住民の総意」として扱い、手続きを省略するのは避けてください。
2026年4月施行の改正区分所有法により、修繕などの決議は集会(総会)に出席した区分所有者の多数決で行うのが原則になりました。書面や代理人で議決権を行使した人も出席者に含まれます。欠席した人の票は賛否のどちらにも数えられないため、関心の低い人が多いほど、少ない人数で結論が決まることになります。可決のしやすさとは別に、「多くの人が納得して決まった」と言える状態をつくるには、書面での議決権行使を丁寧に呼びかけることが欠かせません。
- 段階的に決める方針(検討を進めること)、予算(調査・設計の費用)、実施(工事や契約)と、段階ごとに総会で確認すると、一度に大きな判断を迫らずに済む。
- 議案の要領を丁寧に説明会で出た質問と回答を、議案書の参考資料に反映する。
- 決議後も報告を続ける進み具合と費用の実績を理事会だよりで知らせ、次の判断への信頼につなげる。
2025年5月に成立したマンション関係法の改正には、区分所有者の意向把握や合意形成の支援などを行う民間団体の登録制度の創設も盛り込まれています(国土交通省「マンション関係法改正の概要」)。理事会だけで進めるのが難しいテーマは、外部の支援も選択肢になります。総会の準備は総会の進め方と準備、工事中の住民への伝え方は大規模修繕中の生活と、住民への伝え方で扱っています。
意見をまとめる前に確認したいこと
| 困りごと | 解決案の賛否ではなく、困りごとと影響を聞いたか |
|---|---|
| 設問 | 誘導的な聞き方になっていないか、「分からない」の選択肢があるか |
| 届け先 | 賃貸に出している組合員・遠方の組合員にも届いたか |
| 選択肢 | 実施案・別案・「やらない案」を同じ表で比べたか |
| 根拠 | 費用の数字の出どころを示したか |
| 質問台帳 | 回答済み・調査中・対象外の区分と回答予定日 |
| 個別配慮 | 特別の影響を受ける組合員への説明と承諾 |
| 手続き | 理事会・総会のどの決議で決めるか、必要な賛成数 |
チェックが付かない項目があっても、それ自体は問題ではありません。どこが手薄かを理事会で共有し、次の段階に進む前に補えばよいのです。
確認メモを開く・印刷する無料修繕工事の費用が気になる方へ
工事項目・数量・単価・諸経費を、無料で確認します。必要な施工と監理は守りながら、理事会で質問すべき点を整理します。
- 確認は無料
- 見積書を送るだけ
- 理事会の判断材料に
よくある質問
アンケートで多数が賛成なら、すぐに実施できますか?
アンケートは判断材料であり、正式な決定にはなりません。実施するには、その事項が理事会で決められるのか総会の決議が必要なのかを規約で確認し、所定の手続きを経る必要があります。アンケートの結果は、議案書の参考資料として示すと、総会での判断に役立ちます。
アンケートの回収率が低く、判断に使えるか不安です。
回収率が低くても、回答の内容から論点を拾うことはできます。ただし「賛成○%」を住民全体の意見として扱うのは避け、回収率とあわせて示してください。紙とウェブの併用、締め切り前の再案内、設問数の削減などで回収率を上げる工夫もできます。
説明会で感情的な発言が続き、進行が難しくなりました。
冒頭で「今日は説明と質問の場で、決議は総会で行う」と進め方を示しておくと、議論が過熱しにくくなります。発言が長引く場合は、質問の要点を議長が確認して台帳に記録し、「後日書面で回答します」と区切ってかまいません。個別の事情は別の場を設けて聞く、と伝えるのも有効です。
理事会の中でも意見が割れています。住民に説明を始めてもいいですか?
理事会の中で意見が割れていること自体は、隠す必要はありません。ただ、住民に示す選択肢や比較表の内容は、理事会で合意してから出すほうが混乱を防げます。「理事会としては2案を検討中で、住民の皆さんの意見を聞いて絞り込みたい」と正直に伝える方法もあります。
合意形成に外部の専門家を入れるべきでしょうか?
大規模修繕や建替え、規約の大きな改正など、利害が複雑なテーマでは、マンション管理士や設計事務所などの第三者に説明会の進行や資料作成を依頼する方法があります。理事会と管理会社以外の立場から説明することで、中立性への疑問に応えやすくなる場合があります。費用と役割の範囲は事前に確認してください。
出典・参考資料
- 法務省民事局|区分所有法・被災区分所有法の改正について(令和8年4月、PDF) ↗
- 国土交通省|マンション関係法改正の概要(令和7年9月、PDF) ↗
- 国土交通省|マンション標準管理規約(令和7年10月改正) ↗
- 国土交通省|令和5年度マンション総合調査 ↗
- 国土交通省|令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕(PDF) ↗
写真:Photo by Steven Su on Unsplash、Photo by Brando Makes Branding on Unsplash
本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。