はじめての理事会、何から始める?

輪番で理事が回ってきた。建築も会計も分からない――それでも理事の仕事は回せます。着任から90日で受け取る資料、先に拾う期限、分担の決め方を、管理会社への質問例と一緒に整理しました。

まず押さえたいこと:管理規約と直近の議事録を手元に置く

この記事の要点

  1. 01全部を理解するより「どこに何があるか」を先に把握
  2. 02期限のある案件を最初の2週間で洗い出す
  3. 03役職・担当・連絡手段を最初の理事会で決める
  4. 04任期の終わりを見据え、引き継ぎ簿を初日から付ける
この記事の目次
木製テーブルに置かれた青いクリップボードと水のボトル

理事が回ってきたら、最初に知っておきたい立ち位置

理事は総会の決議で組合員の中から選ばれ、理事長・副理事長・会計担当理事は理事会の決議で理事の中から選ぶ――国土交通省の「マンション標準管理規約」(令和7年10月改正、以下「標準管理規約」)はこの形を示しています(35条)。多くのマンションの規約もこれに近い内容ですが、細部は必ず自分のマンションの規約で確かめてください。

押さえておきたいのは、管理会社は管理組合から業務を受託している立場で、方針を決めるのは管理組合だという点です。理事会は、総会で決まったことを実行し、総会に出す案をまとめる場です。専門知識がなくても、「何を決める会議なのか」が分かっていれば、議論についていけます。

ノートのチェックリストにペンで書き込んでいる手元
最初の数週間は「覚える」より「一覧にする」ことに時間を使う

理事会の開き方はマンションによってかなり違います。国土交通省「令和5年度マンション総合調査」では、理事会を「月に1回程度」開いている管理組合が35.7%、「2か月に1回程度」が27.3%でした。前年度の開催実績を見れば、自分の任期中の負担感はおおよそ見当がつきます。

35.7%理事会を月1回程度開催(令和5年度マンション総合調査)
71.2%管理の疑問の相談先が「管理業者」(同調査・区分所有者向け)
45.4%相談先が「理事長(又は理事)」(同調査)

同じ調査では、区分所有者が管理に疑問を持ったときの相談先として、管理業者に次いで「理事長(又は理事)」が挙がっています。理事になると、住民から声をかけられる場面が増えます。その場で答えを出す必要はなく、「理事会で確認して返します」と受け止めるだけで十分です。

新任理事の最初の90日の流れ。着任から2週間は資料受領・期限案件の洗い出し・連絡手段、1か月目は役職と担当・管理会社との定例確認・未対応事項の一覧化、3か月目までは毎回の確認項目の固定・年間予定表・引き継ぎ簿の開始
新任理事の最初の90日(想定例)。期間は理事会の開催頻度に合わせて調整する

着任から2週間:資料は「中身」より「在りか」を押さえる

引き継ぎで段ボール1箱分の書類を渡されることもあれば、管理会社のシステムに入っているだけで手元には何もない、ということもあります。最初から読み込もうとすると挫折しがちです。まずは次の表の資料が「どこにあるか」「最新版はどれか」を確認し、目次や表紙だけ目を通してください。

資料最初に見る箇所確認先
管理規約・使用細則役員・理事会・総会の章、最終改正日管理会社/理事長保管分
直近2〜3年の総会議事録決議内容と「継続検討」になった事項管理会社・掲示された保管場所
直近1年の理事会議事録未完了の案件、次期への申し送り前理事長・管理会社
予算書・決算書修繕積立金の残高、予算の使用状況会計担当理事・管理会社
長期修繕計画作成年、次の大規模修繕の予定時期管理会社・設計事務所
管理委託契約書契約期間と更新時期、委託業務の範囲理事長保管分
点検・調査の報告書「要是正」「要経過観察」の指摘管理会社

長期修繕計画の読み方は長期修繕計画の記事、委託契約は管理委託契約の見方で詳しく扱っています。ここでは「作成年」と「次の山場」だけ拾えば足ります。

とくに総会議事録は、この1〜2年で何が決まり、何が先送りされたかを知るいちばんの近道です。可決された議案の中に「理事会に一任」と書かれたものがあれば、それは今期の理事会が実行する宿題かもしれません。

  1. 前任者と30分話す資料の説明より「やり残したこと」「困ったこと」を聞く。口頭の話はその場でメモにする。
  2. 管理会社の担当者に資料一覧をもらうフロント担当者(管理会社の窓口)に、管理組合として保管している書類の一覧を依頼する。
  3. 保管場所を1枚にまとめる紙・データ・管理会社保管の別を書き、理事全員で共有する。
注意組合員名簿や滞納の資料など、個人情報を含む書類は自宅に持ち帰って放置しないこと。受け渡しの記録を残し、任期の終わりに確実に返却できる形にしておきます。

期限のある案件を、最初に一覧にする

新任理事が最初に困るのは、知らないうちに期限が迫っている案件です。契約の更新、点検で指摘された是正、総会で「次期理事会で検討」とされた宿題などは、放っておいても誰も思い出させてくれないことがあります。

  • 管理委託契約・保険・駐車場の外部貸しなど、契約の満了日
  • 点検や調査で「要是正」とされた項目と、その対応期限
  • 前回総会で承認された工事・購入のうち、まだ実行していないもの
  • 管理費等の滞納の状況と、督促の段階
  • 住民から出ている要望・苦情のうち、回答していないもの

滞納は多くのマンションで起こり得る課題です。令和5年度マンション総合調査では、管理費・修繕積立金を3か月以上滞納している住戸があるマンションは30.1%でした。督促の段取りは規約や管理委託契約で決まっていることが多いため、まず現状と、管理会社がどこまで対応済みかを確認します。

一覧ができたら、それぞれに「いつまでに」「誰が」「何を決めるか」を書き込みます。今期中に結論を出す必要のないものは、「調べる」「次期に送る」と明記しておくだけでも、案件が宙に浮くのを防げます。

管理会社にはこう聞く

  • 「今期中に期限が来る契約・点検・工事を、日付順の一覧でいただけますか」
  • 「前期から引き継いでいる未完了の案件と、それぞれの現在の状況を教えてください」
  • 「この件は、理事会で決める事項ですか、それとも総会の決議が必要ですか。根拠の条文も教えてください」

最初の理事会で決めておく4つのこと

最初の理事会は、案件の中身よりも「この1年をどう回すか」を決める場にすると、その後が楽になります。決めておきたいのは、役職、担当、連絡の方法、開催のリズムの4つです。

役職標準管理規約での主な役割実務で担うことが多い仕事
理事長管理組合を代表し業務を統括(38条)理事会・総会の議長、契約書への署名
副理事長理事長を補佐し、事故があるとき代理(39条)議事録の確認、理事長不在時の対応
会計担当理事管理費等の収納・保管・支出などの会計業務(40条3項)月次の収支報告のチェック
理事理事会を構成し、定められた業務を担当(40条)防災、設備、広報などの担当
監事業務執行と財産の状況を監査し総会に報告(41条)決算の監査、理事会への出席と意見

開催のリズムは「曜日と時間」まで決める

「月1回程度」とだけ決めると、毎回の日程調整に手間がかかります。「第2土曜の10時から90分」のように固定し、欠席が続きそうな理事にはWEB会議での参加を認めるかどうかも話しておきます。標準管理規約は、WEB会議システム等を用いて開く理事会も会議に含める形で定めています(53条1項)。

議題が少ない月でも、会計報告と未完了案件の確認だけは続けるのが実務上のコツです。2〜3か月空くと、前回何を決めたかを思い出すところから始めることになり、結局時間がかかります。

連絡手段は、メッセージアプリを使う場合でも「決定は理事会で行い、議事録に残す」と線を引いておくと、あとで「チャットで決まったはず」という混乱を防げます。

令和7年改正の標準管理規約では、役員まわりの見直しもありました。理事本人が出席できないときに配偶者や一親等の親族などを「職務代行者」として出席させる場合の考え方と規定例がコメントに加わりましたが、これは規約に明文の定めを置くことが前提です。また、区分所有者ではない者が役員になりすます事案を踏まえ、就任時の本人確認についてもコメントが追加されています。

ポイント

役員が管理組合と取引をする場合(例えば、理事が経営する会社に工事を発注するなど)は、理事会で重要な事実を開示して承認を受ける仕組みが標準管理規約に置かれています(37条の2)。自分や家族の仕事が関係しそうな案件は、最初に申し出ておくのが無難です。

「分からない」と言える理事会にする

理事会で黙ってしまう一番の理由は、「こんなことを聞いたら恥ずかしい」という遠慮です。けれど、専門用語が分からないまま賛成するほうが、後で問題になります。議案の説明を受けたら、次の3つだけ確認する習慣を理事会全体で持つと、質問しやすい空気ができます。

  1. 何を決めるのか「今日決めるのは、実施するかどうかですか、業者の選定ですか、それとも調査の依頼だけですか」
  2. 決めないとどうなるのか「先送りした場合、費用や安全面で何が起きますか」
  3. ほかの選択肢はあるか「別の方法や、別の会社の見積もりと比べましたか」

資料は「前日まで」に配ってもらう

当日に分厚い資料を配られ、その場で説明を聞いて決める――という進め方では、質問を考える時間がありません。管理会社や担当理事に、議案の資料は理事会の数日前までに配布してもらうよう最初にお願いしておきましょう。事前に読んで付箋を貼っておくだけで、理事会での質問の質が変わります。

理事だけで判断が難しい分野は、外部の力を借りられます。令和5年度マンション総合調査では、専門家を活用しているマンションは41.4%で、内容は単発のコンサルティングが最も多く65.2%でした。外部の専門家を役員に選ぶことを「検討している」「将来必要なら検討したい」マンションは34.6%あり、その理由には区分所有者の高齢化(42.7%)と役員のなり手不足(42.3%)が並びます。

大規模修繕や規約の見直しのように時間がかかるテーマは、理事会の下に専門委員会を置く方法もあります(標準管理規約55条)。役割の考え方は理事・修繕委員の役割の記事も参考になります。

任期の終わりから逆算して、記録を付け始める

標準管理規約のコメントは、役員の任期を組合の実情に応じて1〜2年とし、業務の継続性を重視するなら任期2年で半数ずつ改選する方法もよい、としています。1年任期で全員が入れ替わるマンションでは、引き継ぎの質がそのまま次の理事会の出発点になります。

だからこそ、着任したその月から「引き継ぎ簿」を付け始めるのがおすすめです。形式はシンプルで構いません。表計算ソフトの1枚に、案件名・発生日・現状・次にやること・関係資料の場所を書くだけでも、1年後の自分と次の理事を助けます。

  • 理事会ごとに、案件の「現状」欄を更新している
  • 決まらなかった案件も、理由と次回の予定を書いている
  • 管理会社から受け取った資料の保管先を記録している
  • 住民への回答が必要な事項に、担当者と期限を付けている

年間の動きは理事会の年間スケジュール、決め方はマンション理事会とは?役割・仕事と決めることで続けて整理しています。

着任90日のうちに確認したいこと

管理規約最終改正日と、役員・理事会・総会の条文
議事録直近の総会・理事会で「継続検討」になった事項
会計修繕積立金の残高と、今期予算の使用状況
契約管理委託契約・保険などの満了日と更新手続き
点検・調査是正を求められている項目と期限
体制役職・担当・連絡手段・開催頻度の合意
利害関係役員自身や家族が関わる取引の有無
引き継ぎ引き継ぎ簿の形式と保管場所

すべてを一度に埋める必要はありません。空欄のまま残る項目こそ、管理会社や前任者に聞くべきことの一覧になります。確認できたことは日付と出典(どの資料で確かめたか)を添えて残しておくと、次の人がたどり直せます。

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よくある質問

建築や会計の知識がなくても理事は務まりますか?

務まります。理事会に求められるのは、専門家や管理会社の説明を聞いて「何を決めるのか」「ほかの選択肢はあるか」を確かめ、組合員の立場で判断することです。判断が難しい分野は、専門委員会や外部専門家の活用も検討できます。分からない点を質問として残すこと自体が、理事の大事な仕事です。

理事長を引き受けるよう頼まれましたが、断れますか?

理事長・副理事長・会計担当理事は、標準管理規約では理事会の決議で理事の中から選ぶ形になっています。事情があれば理事会で率直に伝え、役割分担で負担を調整する余地を話し合うのが現実的です。役員の選び方や辞任の扱いは規約によって異なるため、自分のマンションの規定を確認してください。

前任の理事から引き継ぎがほとんどありません。どうすればいいですか?

管理会社には、管理組合の書類や議事録の写しが保管されていることが多いため、まず一覧を依頼します。そのうえで直近の総会・理事会の議事録から未完了の案件を拾い出し、分からない点は前任者に個別に質問します。今回の経験を踏まえ、次の引き継ぎ用に引き継ぎ簿を付け始めると同じ苦労を繰り返さずに済みます。

仕事の都合で理事会に出られない月があります。代わりに家族が出てもいいですか?

標準管理規約のコメントでは、理事は原則として本人が出席するものとされています。そのうえで令和7年改正で、規約に明文の定めを置けば配偶者や一親等の親族などを職務代行者として出席させる考え方が示されました。自分のマンションの規約に定めがあるか確認し、なければWEB会議での参加などを理事会で相談してください。

住民から直接苦情を受けたら、その場で対応すべきですか?

その場で約束や結論を出す必要はありません。内容・日時・相手を記録し、「理事会で確認して回答します」と伝えれば十分です。個人間のトラブルに理事が一人で入り込むと、かえってこじれることがあります。理事会で対応方針を決め、必要に応じて管理会社を通じて回答する流れにしておくと安心です。

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出典・参考資料

写真:Photo by Babak Eshaghian on Unsplash、Photo by Glenn Carstens-Peters on Unsplash

本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。