大規模修繕中の生活と、住民への伝え方

洗濯物、窓、バルコニー、騒音、防犯。住みながら進める大規模修繕では、工事の中身と同じくらい暮らしへの説明が大切です。工程ごとの影響、工事のしおりと説明会、伝え方の組み合わせ、問い合わせ窓口の決め方を整理します。

まず押さえたいこと:影響は工程別・住戸別に、日付で知らせる

この記事の要点

  1. 01生活への影響は、設計段階から工事条件として考える
  2. 02工程ごとに影響が違うので、住戸別・日付で知らせる
  3. 03足場が立った日から、防犯と施錠の呼びかけを
  4. 04問い合わせ窓口を一本化し、受付と対応を記録する
この記事の目次
夜の高層マンションのバルコニー

住民が知りたいのは「自分の部屋で何が起きるか」

窓からバルコニーが見える室内と椅子
工事中は、窓やバルコニーの使い方に一時的な制限がかかります

大規模修繕の説明会で、住民から最も多く出るのは工法や金額の質問ではありません。「洗濯物はいつ干せなくなるのか」「窓は開けられるのか」「エアコンの室外機はどうなるのか」。知りたいのは、工事全体の話ではなく、自分の暮らしへの影響です。

国土交通省の「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)も、工事の内容を決める際には、工事中の窓の開閉制限、バルコニーの使用制限、仮住居への引越しの必要性など、日常生活への支障の程度を検討する必要があるとしています。生活への影響は、工事が始まってから説明するものではなく、設計の段階から工事の条件として考えるものです。

設計の段階で施工会社や設計者に聞いておくこと

  • 「1住戸あたり、バルコニーに立ち入れない日は合計で何日くらいになりますか」
  • 「室内に入って行う作業はありますか。ある場合、在宅が必要な時間はどのくらいですか」
  • 「作業時間は何時から何時まで、土曜・日曜・祝日の作業はありますか」

こうした質問への回答は、見積りを比べるときの材料にもなります。工期が短い提案は魅力的に見えますが、同じ期間に多くの住戸で制限が重なる工程になっていないかも合わせて確認します。

一般的な外壁・防水中心の大規模修繕は、住みながら行う「居ながら工事」です。だからこそ、住民の協力がなければ工事は進みません。マニュアルは「改修工事は居住者の協力なくしては進めることができません」と書いています。

工事全体の流れや費用、決め方を先に知りたい方は、大規模修繕工事とは?費用相場・周期・進め方の全体像をご覧ください。

工程ごとに、暮らしへの影響は変わる

足場の設置、下地補修・洗浄、シーリング打替え、塗装、バルコニー床防水、検査・足場解体の各工程と、騒音、窓の開閉制限、洗濯物、私物の移動、防犯などの影響を対応させた図
工程の一例。国土交通省「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)の記載をもとに編集部作成

影響の出方は工程ごとに違います。足場が立っている期間はずっと続く影響と、特定の工程の数日だけの影響を分けて伝えると、住民は予定を立てやすくなります。

工程の例起きやすいこと住民へのお願い・配慮の例
足場の設置・解体金属音、車両の出入り、駐車場や通路の一部制限車両の移動日の事前案内、通路の迂回表示
下地補修・洗浄打診やはつりの音、洗浄の水しぶき洗浄日は窓を閉める、窓際の物を片付ける
シーリング打替え窓まわりの作業、一時的な窓の開閉制限作業日の住戸別案内、換気の方法の案内
塗装塗料の臭い、外干しの制限干せない期間の明示、臭いに敏感な方の個別相談
バルコニー床防水バルコニーへの立入り不可、私物の移動移動の期限、大型の物や室外機の扱いの案内

足場がある間、ずっと続くこと

工程ごとの影響とは別に、足場とシートが立っている間は続く変化もあります。部屋が暗く感じる、窓の外を作業員が通る、エアコンの室外機まわりが作業の動線になる、といったことです。作業員の視線が気になる方には、作業予定の時間帯を知らせ、カーテンを閉めてもらうよう案内すると、不安がかなり和らぎます。

工程の順序や期間は、建物の形や工法、工区の分け方で変わります。表はあくまで一例として、施工会社から自分たちの工事の工程表を受け取り、住戸ごとに当てはめて案内するのが基本です。

着工前にそろえる「工事のしおり」と説明会

マニュアルは、施工計画ができたら工事説明会の資料(工事のしおりなど)を配り、工事内容と施工体制、工程、作業時間、現場事務所の設置、足場や安全対策、品質管理の方法、住民へのお願いなどを説明するよう求めています。特に居ながら工事では、工事を行う住戸の居住者への事前説明で理解と協力を得ることが重要だとしています。

  1. しおりの原案を確認する施工会社が作った原案を、修繕委員が住民の目線で読む。専門用語、曖昧な日付、連絡先の書き漏れがないかを確認する。
  2. 説明会の日程を複数用意する平日夜と休日など複数回開き、参加できない人向けに資料と質疑の要旨を配る。
  3. 住戸別の事情を集める在宅療養、乳幼児、ペット、在宅勤務、夜勤など、配慮が必要な事情を申し出てもらう用紙を配る。
  4. 近隣にも知らせる騒音や工事車両の通行について、必要に応じて近隣住民にも事前に説明する。

説明会では、洗濯物、室外機、駐車場、ペット、在宅勤務中の騒音、工事中の来客や宅配の受け取りといった質問が出やすいものです。想定される質問と回答をあらかじめ施工会社と用意し、説明会の後に質疑の要旨として全戸に配ると、同じ質問が個別に何度も寄せられるのを防げます。

しおりに入れたい項目

  • 工事期間、作業時間、休工日
  • 工程ごとの生活への影響と、住戸別の予定の知らせ方
  • バルコニーの私物の移動期限と、移動できない物の扱い
  • 通常の問い合わせ先と、緊急時の連絡先
  • 防犯上のお願い(窓やサッシの施錠など)
  • 駐車場・駐輪場の使用制限と、車両を移動する日の案内
  • 集会室やエントランスなど共用施設の使用制限

伝え方の設計:掲示・配布・個別連絡を組み合わせる

工事中の予定は、天候や現場の状況で変わります。変更が起きる前提で、情報をどう届けるかを決めておくことが大切です。マニュアルは、工事掲示板やチラシで進み具合やバルコニーの使用制限、洗濯物を干せるかどうかを案内し、掲示板は居住者の目に付きやすい場所に設置するよう求めています。

予定の変更は、変わったことだけでなく、変わった理由と新しい予定をセットで伝えます。「雨天のため、○階の塗装を○日から○日に変更します。外干しできない期間も同じく変わります」と書けば、住民は自分で判断できます。

手段向いている情報注意点
エントランスの掲示週間予定、全体の進み具合、変更のお知らせ毎週同じ曜日に更新し、更新日を明記する
各戸への配布住戸別の作業日、バルコニーの立入り制限日付と部屋番号を具体的に。前日の再案内も
メール・アプリ急な予定変更、当日の案内登録していない住民に届かない前提で併用する
個別の声かけ・訪問配慮が必要な住戸、室内での作業の調整訪問の担当者と時間帯を事前に知らせる

住戸別の案内は、「○号室:○月○日〜○日 バルコニー立入り不可(床防水)」のように、部屋番号・期間・理由を1行で示す形にすると読み違いが減ります。工区ごとに色分けした建物の立面図を掲示に添えるのも、自分の住戸がいつ対象になるかを直感的に伝える方法です。

令和5年度マンション総合調査では、1984年(昭和59年)以前に完成したマンションで世帯主が70歳以上の割合が55.9%でした。2回目、3回目の大規模修繕を迎えるマンションほど、電子的な連絡だけでは情報が届きにくい住民が増えます。紙の案内と対面での説明を残すことは、手間ではなく必要な工程と考えてください。

防犯と安全は、足場が立った日から

足場が組まれると、普段は近づけない上階の窓やバルコニーに外から近づけるようになります。マニュアルは、足場からの不審者の侵入を防ぐため、1階まわりへの金網フェンスの設置や赤外線センサーによる警備システムの導入を検討すること、居住者にもサッシの施錠や補助錠の利用を促すことを挙げています。

  • 足場の昇降口の施錠と、作業終了後の管理方法を施工会社に確認する
  • 作業員の見分け方(腕章やヘルメットの表示など)を住民に知らせる
  • 「作業員を名乗る不審な訪問」への注意を呼びかける

敷地内の安全にも目を配ります。足場の組立てや解体の時期は事故が起きやすく、マニュアルは誘導員の配置や立入禁止区域の設定が適切かを確認するよう求めています。子どもの通学時間帯や、高齢の方がよく使う通路と、資材の搬入経路が重ならないかを施工会社と一緒に確認しておきましょう。

メッシュシートで覆われると、室内が暗く感じられ、圧迫感を訴える声も出ます。マニュアルは、塗料の飛散防止などに欠かせないことを説明したうえで、視認性のよい黒色のシートを使うなど居住者の立場に立った対策を施工者に求めるとしています。

注意塗料の臭いや騒音が体調に影響する方もいます。医療的な配慮が必要な事情の申し出は、本人の同意なく掲示や議事録に書かないでください。対応は理事会と施工会社の担当者の間で、必要な範囲だけで共有します。

苦情と要望の受け付け方を、先に決めておく

工事中の問い合わせは、施工会社の現場事務所、管理会社、理事、修繕委員とあちこちに届きがちです。受付先がばらばらだと、同じ質問に違う答えが返ったり、対応が抜けたりします。

  1. 窓口を一本化する通常の問い合わせは現場事務所、緊急時は施工会社の緊急連絡先、と分けて明示する。
  2. 受付票で記録する日時、住戸、内容、対応者、対応結果を記録し、個人情報を除いて理事会と共有する。
  3. 報告会で確認するマニュアルが月1回程度の開催を勧める工事報告会で、問い合わせの傾向と未対応の件を確認する。
  4. 全体に関わる内容は掲示する複数の住民に関係する質問と回答は、掲示やお知らせで共有する。
場面主に対応する人管理組合の関わり方
日々の作業に関する質問施工会社の現場代理人受付票で内容と対応を確認する
工事の内容・品質への疑問監理者(設計監理方式の場合)報告会で説明を求め、住民に回答を伝える
生活上の配慮の相談施工会社と理事会が協議対応の範囲と費用負担を決める
住民同士のトラブル理事会・管理会社工事と切り分けて、規約や細則に沿って対応する

工事が終わった後にも、伝えることがある

足場が外れると住民の関心は一気に下がりますが、管理組合としては伝えるべきことが残っています。新しい防水層の上に重い物を置かない、排水口の掃除を続けるといった使い方の注意、不具合を見つけたときの連絡先、アフター点検の予定などです。

  • バルコニーへ私物を戻してよい日と、戻すときの注意
  • 工事後の不具合や汚れの受付期間と連絡先
  • 保証の内容とアフター点検の時期
  • 工事の概要、費用、今後の修繕予定をまとめた報告

工事が終わったら、住民アンケートで工事中の困りごとや案内の分かりやすさを聞いておくのも有効です。「掲示が見づらかった」「作業日の案内が遅かった」といった声は、次の工事のしおりや施工会社を選ぶときの評価項目にそのまま使えます。結果は要点をまとめて共有し、声を寄せた住民にも伝わるようにします。

工事の報告は、次の大規模修繕への信頼の積み立てでもあります。何を直し、何を見送り、いくらかかったのかを総会や広報で伝えておくと、十数年後に次の工事を検討する人たちの大きな助けになります。検査と引渡しの要点は工事の品質を守るために確認したいこと、住民の意見のまとめ方は住民の意見を、どうまとめる?を参照してください。

住民対応の準備チェックリスト

工事のしおり期間、作業時間、休工日、連絡先、お願い事項
説明会複数回の開催、欠席者への資料配布
配慮の申出療養、乳幼児、ペット、在宅勤務などの事情の把握
工程の知らせ方掲示の更新日、住戸別の案内、急な変更の連絡
バルコニー私物の移動期限、室外機・大型の物の扱い
防犯足場まわりの対策、施錠の呼びかけ、作業員の識別
問い合わせ窓口の一本化、受付票、報告会での共有
工事後使い方の注意、不具合の受付、アフター点検

住民対応の準備は、施工会社任せにしないことが大切です。しおりや掲示の文案を修繕委員が一度読み、住民の立場で分かりにくいところを直すだけでも、工事中の問い合わせは減ります。

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よくある質問

工事中も住み続けられますか?

外壁や防水を中心とした一般的な大規模修繕は、住みながら行う居ながら工事です。ただし、窓の開閉やバルコニーの使用、外干しなどに制限がかかる期間があります。工事の内容によっては仮住居が必要になる場合もあるため、設計の段階で生活への影響を確認しておきます。

洗濯物はずっと外に干せないのですか?

工事期間中ずっとではなく、洗浄や塗装など飛散のおそれがある工程の間、住戸ごとに制限がかかるのが一般的です。いつからいつまで干せないのかを住戸別に知らせてもらうよう、施工会社に求めてください。コインランドリー代の補助などを行うかは、管理組合と施工会社の協議によります。

バルコニーの室外機やエアコンはどうなりますか?

床の防水工事では、室外機を一時的に持ち上げたり移動したりする必要があります。誰が作業し、その間エアコンが使えるのか、費用はどちらが負担するのかは工事によって違います。夏場や冬場に重なる場合は特に、しおりで具体的に案内してもらいましょう。

工事中に留守にする場合はどうすればよいですか?

長期の旅行や入院などで留守にする場合は、事前に現場事務所か管理組合に知らせておきます。バルコニーの私物の移動や室内での作業が必要な工程に当たる場合、日程の調整や立会いの方法を相談できます。緊急時の連絡先も伝えておくと、雨漏りなどが起きたときの対応が早くなります。

賃貸に出している住戸の入居者にはどう伝えますか?

工事の案内は区分所有者に届くだけでは不十分で、実際に住んでいる入居者に届く必要があります。区分所有者に入居者への周知を依頼するとともに、各戸へのしおりの配布や掲示で入居者にも直接伝わるようにしておくと、当日のトラブルを防げます。

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出典・参考資料

写真:Photo by Levi Meir Clancy on Unsplash、Photo by Thuy Duong Nguyen on Unsplash

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