修繕積立金の値上げは妥当?提案を確かめる手順

修繕積立金の値上げ提案が出たら、賛成か反対かを決める前に「なぜ、いくら、いつまで」を分解して確かめます。令和6年改定の国交省ガイドラインの目安、値上げ幅の比べ方、総会での決め方と払えないときの相談先まで整理します。

まず押さえたいこと:値上げの理由を、原因ごとに分けて聞く

この記事の要点

  1. 01値上げの理由を単価・工事追加・過去の不足・方式に分解
  2. 02段階増額は初期額0.6倍以上・最終額1.1倍以内が目安
  3. 03「先送り」は後の世代と建物に負担を残しやすい
  4. 04額の変更は総会決議。説明の順番と資料が合意を左右する
この記事の目次
左から右へ少しずつ高く積み上げられた硬貨の列

修繕積立金の値上げは、なぜ提案されるのか

修繕積立金の値上げ提案には、大きく4つの出どころがあります。一つ目は、新築時から決まっていた段階増額の予定どおりの引上げ。二つ目は、長期修繕計画の見直しで工事費が増えたこと。三つ目は、過去の引上げが見送られてきたことによる積立不足。四つ目は、管理計画認定の取得など制度面を意識した水準の引上げです。

国土交通省「令和5年度マンション総合調査」では、段階増額積立方式を採用している管理組合は47.1%。2015年以降に完成したマンションでは81.2%にのぼります。多くのマンションにとって、値上げは「想定外の出来事」ではなく、計画にもともと組み込まれているものです。

均等積立方式は30年間毎月14,500円、段階増額積立方式は6,000円から5年ごとに3,000円ずつ上がり26〜30年目に21,000円になることを示した階段状のグラフ
均等積立方式と段階増額積立方式のイメージ(戸当たり月額)。出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)の例示

同じ調査では、長期修繕計画上の積立額に比べて実際の積立額が不足しているマンションが36.6%ありました。計画どおりに集まっていない差を埋めることも、値上げが必要になる理由の一つです。

図はガイドラインが示すイメージ例です。30年間で戸当たり522万円が必要な場合、均等積立なら毎月1万4,500円。段階増額では購入時に基金36万円を集め、月6,000円から5年ごとに3,000円ずつ上げて、最後の5年間は月2万1,000円になります。後半ほど負担が重くなる形で、ガイドラインは、将来の負担増を前提とする方式は、増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じていると注意しています。

日付に赤い画びょうが刺さったカレンダー
段階増額の予定時期は、長期修繕計画の収支表で確認できる

値上げの根拠になる大規模修繕工事の費用や周期の目安は、大規模修繕工事とはで、工事費の相場は大規模修繕の費用相場で確認できます。

修繕積立金の値上げ幅は妥当か:ガイドラインの目安

国交省は令和6年6月、修繕積立金ガイドラインを改定し、段階増額積立方式における適切な引上げの考え方を加えました。均等積立方式とした場合の月額(計画期間全体の平均額)を基準額として、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は基準額の1.1倍以内とするものです。

ガイドラインの計算

基準額D=計画期間全体で集める修繕積立金の総額÷総専有床面積÷計画期間(か月)
初期額E(計画期間中の最低額)≧0.6×D、最終額F(最高額)≦1.1×D

ねらいは、初期を安くしすぎて後半に急な値上げを残すことを防ぎ、早めに引上げを終えて均等積立に近づけることです。ガイドラインは、築年数とともに必要な修繕積立金が増えることや、区分所有者の高齢化で負担が難しくなっていくことを踏まえ、早期に引上げを完了させることが望ましいとしています。

注意したいのは、基準額Dそのものが計画の見直しのたびに変わることです。5年後の見直しで工事費が上がれば、Dも上がり、0.6倍・1.1倍の線も動きます。今回の案が目安の範囲に収まっていても、それは今回の計画を前提にした話だと理解しておく必要があります。

注意この目安は「大幅な値上げをしてはいけない」という意味ではありません。ガイドラインは、工事費の高騰などを踏まえた計画の見直しで、管理の適正化のために現在の額を大幅に引き上げることなどを制限するものではないと明記しています。

値上げ後の水準を㎡単価で見る

「値上げ幅の相場」として、全国一律の上げ幅や率が公的に示されているわけではありません。比べる物差しになるのは、同じガイドラインが示す計画期間全体の平均額の目安です。機械式駐車場分を除いた専有面積1㎡当たりの月額は、次のとおりです。

地上階数/建築延床面積事例の3分の2が収まる幅平均値
20階未満・5,000㎡未満235〜430円335円
20階未満・5,000㎡以上10,000㎡未満170〜320円252円
20階未満・10,000㎡以上20,000㎡未満200〜330円271円
20階未満・20,000㎡以上190〜325円255円
20階以上240〜410円338円

改定後の計画の平均額がこの幅から大きく外れていないかを見れば、値上げ後の水準が極端かどうかの見当がつきます。ただし建物の形状や設備で必要額は変わるため、最終的には自分のマンションの長期修繕計画で判断します。なお「令和5年度マンション総合調査」での修繕積立金の平均は、戸当たり月額1万3,054円でした。

想定例:2つの増額案を、目安に当てはめて比べる

40戸、築8年、総専有床面積2,800㎡(1戸平均70㎡)のマンション。現在の積立金は140円/㎡・月(70㎡で月9,800円)です。長期修繕計画を見直したところ、今後30年で集める必要がある積立金は、均等に割ると250円/㎡・月(70㎡で月1万7,500円)になりました。0.6倍は150円、1.1倍は275円です。

期間A案(当初案)B案(修正案)
1〜5年目140円(9,800円)170円(11,900円)
6〜10年目200円(14,000円)230円(16,100円)
11〜15年目260円(18,200円)275円(19,250円)
16〜30年目300円(21,000円)275円(19,250円)
30年間の平均250円250円
初期額÷基準額0.56倍(目安未満)0.68倍
最終額÷基準額1.2倍(目安超過)1.1倍

単価は円/㎡・月、かっこ内は70㎡住戸の月額です。どちらの案も30年間で集める総額は同じですが、A案は当面の値上げをゼロにする代わりに、16年目以降に月2万1,000円という重い負担を残します。B案は最初の値上げ幅が月2,100円ありますが、11年目で引上げが終わり、以降は一定です。

両案の差を30年間の支払総額で見ると、70㎡の住戸ではどちらも同じ630万円(1万7,500円×360か月)です。違うのは払う時期だけ。だからこそ「どちらが得か」ではなく、「どちらが計画どおり最後まで集めきれるか」で比べる必要があります。

A案の最終段階は、今の購入者層が高齢になる時期と重なりやすく、そこで合意が得られなければ計画そのものが崩れます。「当面は据え置き」という案は総会で通りやすい反面、将来の区分所有者と建物に負担を回す案でもある、という視点で比べてみてください。

値上げの提案書を受け取ったら、この順で確かめる

  1. 理由を分解してもらう必要額の増加を「工事単価の上昇」「工事項目の追加」「過去の積立不足」「積立方式の変更」に分け、それぞれの金額を示してもらいます。
  2. 計画の前提が新しいか長期修繕計画の作成日、調査・診断の有無、単価の時点を確認します。古い計画のまま値上げ幅だけを決めると、数年後にまた見直しが必要になります。
  3. 工事費の根拠を見る増えた工事項目の数量と単価、諸経費の率。必要な施工や監理を削るのではなく、説明のつかない費用がないかを確かめる段階です。
  4. 代替案を並べる増額のタイミング、一時金、借入れ、工事時期の調整などを組み合わせた複数案を、時期別の負担と残高推移で比べます。
  5. 将来の見直し時期を決めておく次の見直しを何年後に行うかを、決議とあわせて決めておきます。
管理会社・計画作成者にはこう聞く

「今回の増額が必要になった理由を、単価上昇・工事追加・過去の不足・方式の4つに分けると、それぞれ1㎡当たり何円分ですか」「この案で、計画期間中に残高が最も少なくなるのは何年度で、いくら残りますか」「値上げを5年遅らせた場合、最後の負担はいくらになりますか」。

工事費の中身を点検する視点は修繕費の見直しと修繕積立金の関係、見積書の読み方は修繕工事の見積書の見方が参考になります。

修繕積立金の値上げを総会で決めるまで

標準管理規約(令和7年10月改正)では、管理費等の額と長期修繕計画の変更は総会の決議事項で、多くの規約では普通決議です。2026年4月1日施行の改正区分所有法により、建替えなどを除く集会の決議は出席者の多数決が基本になり、標準管理規約でも総会の定足数を議決権総数の過半数、普通決議を出席組合員の議決権の過半数とする形になりました。議決権行使書や委任状による参加も出席に含まれます。

払えそうにないときは、早めに相談する

値上げ後の額を払えそうにない場合、黙って滞納するのがいちばん不利な選択です。滞納すれば規約に基づく遅延損害金や督促の対象になります。まず理事会や管理会社に早めに事情を伝え、組合としてどんな対応がとれるかを確認してください。家計そのものの相談は自治体の生活相談の窓口、決議の手続きへの疑問はマンション管理士や弁護士が相談先になります。

  1. 理事会で案を固める複数案の比較表と、選んだ理由を文書にします。
  2. 説明会を開く総会の1〜2か月前が目安。欠席者には資料を配布し、質問を受け付けます。
  3. 議案書を作る新旧の月額(住戸タイプ別)、適用開始月、長期修繕計画の変更点をセットで示します。
  4. 総会で決議し、周知する口座振替の変更手続きに時間がかかるため、適用開始まで余裕を持たせます。

決議の後も仕事は残ります。新しい月額の通知、口座振替額の変更、賃貸に出しているオーナーへの連絡などを管理会社と分担し、適用開始の月に引落し額が正しく変わったかまで確認して、ようやく一区切りです。

総会運営の全体像は総会の進め方と準備、住民の意見のまとめ方は住民の意見を、どうまとめる?で扱っています。案をつくる理事会の役割はマンション理事会とは、管理費との違いはマンションの管理費とはを参照してください。

説明資料に入れておきたい数字

値上げの議案で住民が知りたいのは、「自分の家はいくら上がるのか」「それで本当に足りるのか」「なぜ今なのか」の3つです。抽象的な必要性の説明より、次のような数字を1枚にまとめたほうが伝わります。

  • 住戸タイプ別の現在の月額と、改定後の月額(増額幅も併記)
  • 次の大規模修繕の予定年度と、その時点の残高見込み(値上げした場合・しない場合)
  • 長期修繕計画上の残高と、現在の実際の残高との差
  • 国交省ガイドラインの㎡単価の目安と、改定前後の計画期間平均額の比較
  • 値上げを5年先送りした場合に、最終的に必要になる月額

とくに最後の「先送りした場合」の数字は、賛否を考えるうえで判断材料になります。先ほどの想定例でいえば、当面据え置くA案の最終額は70㎡で月2万1,000円、B案は1万9,250円でした。先送りは「払わなくて済む」のではなく「後でまとめて払う」ことだと、数字で示せます。

避けたい説明「全国平均より安いから上げても大丈夫」「ほかのマンションも上げている」といった説明は、根拠として弱く、反発を招きがちです。自分のマンションの計画と残高の数字で説明するのが基本です。

そのうえで、支出側の見直し、つまり今後の工事費に説明のつかない部分がないかの点検も並行して進めていることを示せると、「取るだけ取るのか」という不信感を和らげることにつながります。

値上げとあわせて検討したい制度

管理計画認定制度

地方公共団体が管理計画を認定する制度で、長期修繕計画や修繕積立金についての基準があります。現在の基準には、計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと、将来の一時金の徴収を予定していないこと、計画期間の最終年度に借入金の残高がないことなどが含まれます。「著しく低額でない」かどうかは、ガイドラインの㎡単価の目安の幅の下限が参照されます(詳しくは修繕積立金はいくら必要?)。

マンション長寿命化促進税制

築20年以上・10戸以上の管理計画認定マンションなどで、令和3年9月1日以降に修繕積立金を認定基準の水準まで引き上げ、外壁塗装等・床防水・屋根防水の長寿命化工事を行った場合に、工事完了の翌年度の建物部分の固定資産税が減額される制度です。減額割合は市町村の条例で6分の1〜2分の1の範囲で定められ、対象は令和9年(2027年)3月31日までに完了した工事です。

マンションすまい・る債

住宅金融支援機構が発行する管理組合向けの10年債で、積立金の保管・運用の選択肢の一つです。2026年度の募集は4月13日から10月9日までで、10年満期時の年平均利率(税引前)は通常2.000%、管理計画認定を取得した組合向けの「認定すまい・る債」は2.100%とされています。募集口数に上限があり先着順なので、検討する場合は早めに条件を確認してください。

値上げ議案の前に確認したいこと

増額理由の内訳単価上昇・工事追加・過去の不足・方式の変更に分けた金額
長期修繕計画の新しさ作成日、調査・診断の有無、単価の時点
基準額との比較初期額が0.6倍以上、最終額が1.1倍以内か
残高の最低点各案で残高が最も少なくなる年度と金額
代替案時期の変更、一時金、借入れ、工事時期の調整を含めた比較
住戸タイプ別の月額新旧の金額と適用開始月
決議要件規約上の決議方法、定足数、改正法への対応状況
関連制度管理計画認定・長寿命化促進税制の要件を満たすか

値上げは一度決めたら終わりではありません。次の見直し時期を決議に書き込んでおくと、「前回の約束」として次の理事会が動きやすくなります。

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よくある質問

修繕積立金はなぜ値上げされるのですか?

主な理由は、新築時から予定されていた段階増額、長期修繕計画の見直しによる工事費の増加、過去の積立不足、制度の基準を意識した水準の見直しです。「令和5年度マンション総合調査」では、段階増額積立方式を採用している管理組合が47.1%あり、値上げが当初から計画に組み込まれているケースも少なくありません。

修繕積立金の値上げは総会の過半数で決まるのですか?

標準管理規約では、管理費等の額は総会の普通決議(出席組合員の議決権の過半数)で決めます。2026年4月施行の改正区分所有法で出席者の多数決が基本となりました。ただし定足数や決議要件は自分の組合の規約で異なる場合があるため、規約の条文を確認してください。

修繕積立金の値上げに反対した場合、払わなくてもよいですか?

総会で有効に決議された管理費等の額は、反対した区分所有者も含めて全員に適用されます。支払わなければ滞納となり、規約に基づく遅延損害金や督促の対象になります。決議の手続きに疑問がある場合は、マンション管理士や弁護士などの専門家に相談してください。

均等積立方式なら、修繕積立金の値上げはないのですか?

ガイドラインは、均等積立方式でも、その後の長期修繕計画の見直しで増額が必要になる場合があるとしています。劣化の状況や工事費の高騰などで修繕の周期や費用は変わるため、どの方式でも5年程度ごとに計画を見直し、積立金を設定し直すことが必要です。

修繕積立金の値上げ後、払えないときはどうすればいいですか?

滞納する前に、理事会や管理会社へ早めに事情を伝えてください。滞納すると規約に基づく遅延損害金や督促の対象になります。組合としてどのような対応がとれるかは規約と理事会の判断によります。家計の相談は自治体の生活相談窓口、決議手続きへの疑問はマンション管理士や弁護士に相談できます。

値上げは大規模修繕の直前にまとめて行えばよいのでは?

直前にまとめると、1回の増額幅が大きくなり合意を得にくくなります。工事の年に残高が足りなければ一時金や借入れが必要になることもあります。ガイドラインも、段階増額では早期に引上げを完了させることが望ましいとしています。早めに小さく始めるほうが、負担の見通しを持ちやすくなります。

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出典・参考資料

写真:Photo by Kamil on Unsplash、Photo by Towfiqu barbhuiya on Unsplash

本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。