長期修繕計画とは?見ておきたい項目

長期修繕計画は、30年以上先までの工事の予定と、その費用をどう積み立てるかをまとめた資料です。国交省ガイドラインの基準をもとに、表のどこを読み、いつ見直すべきかを具体的に整理します。

まず押さえたいこと:作成日と、工事費の単価の時点

この記事の要点

  1. 01計画期間は30年以上、大規模修繕2回を含む長さに
  2. 02工事費は「数量×単価」。単価の時点を確認する
  3. 03収支表で残高が最も少なくなる年を探す
  4. 045年程度ごとに調査・診断をして見直す
この記事の目次
定規とペンが置かれた紙に手描きされた折れ線グラフ

工事の予定表と、お金の収支表がセットになった資料

長期修繕計画は、「どこを、いつ、いくらで直すか」という工事の予定と、「そのお金をどう準備するか」という資金計画を一体にした管理組合の計画書です。国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)は、その目的として、将来の工事の内容・時期・概算費用を明確にすること、修繕積立金の額の根拠を明確にすること、工事についてあらかじめ合意しておくことの3つを挙げています。

令和5年度マンション総合調査では、長期修繕計画を作成している管理組合は88.4%。多くのマンションに計画はありますが、「毎年の総会資料に綴じられているのに、誰もきちんと読んでいない」という声もよく聞きます。修繕積立金の額はこの計画から逆算されるので、値上げの話が出たときに最初に開くべき資料です。

木の机の上に開かれた月間スケジュール帳
長期修繕計画は、数十年単位の工事のスケジュール帳でもある

ガイドラインの標準様式では、計画書はおおむね「建物・設備の概要」「調査・診断の概要」「作成の考え方」「総括表」「収支計画グラフ」「長期修繕計画表(工事項目別・年度別)」「推定修繕工事費内訳書」「修繕積立金の額の設定」で構成されます。初めて読むなら、総括表と収支計画グラフで全体像をつかみ、気になる年度を長期修繕計画表で掘り下げる順番が効率的です。

大事な前提があります。ガイドラインは、長期修繕計画は作成時点での推定であり、将来の工事の内容・時期・費用を「確定するものではない」と明記しています。周期はおおよその目安で、物価や工事費、金利は変動します。だからこそ一定期間ごとに見直すことが前提になっている、というのが計画書を読むときの基本姿勢です。

計画の節目になる大規模修繕工事そのものの周期・費用・進め方は、大規模修繕工事の全体像をまとめた記事で整理しています。

「30年以上、大規模修繕2回」はなぜ必要か

ガイドラインは計画期間を「30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」としています。外壁の塗装や屋上防水などをまとめて行う大規模修繕の周期は、部材や仕様によって異なるものの一般的に12〜15年程度。2回分を入れると、おおむね30年前後になります。

外壁塗装・防水等は12〜15年と24〜30年、鉄部塗装は5〜7年ごと、給排水管は19〜23年で更生し30〜40年で取替、エレベーターは26〜30年で取替、機械式駐車場は18〜22年で取替、手すり・建具は34〜38年で取替という周期を、0〜40年の時間軸に示した図
主な工事の修繕周期の例。国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」(令和6年6月改定)の修繕周期の例をもとに編集部作成

図のとおり、30年という枠の外側に大きな工事が控えています。ガイドラインのコメントも、新築時に30年で計画を作った場合、サッシなどの建具や給排水管の取替えは周期が計画期間を超えて計上されていないことがあると注意しています。築20年を過ぎたマンションで計画期間が「築30年まで」で止まっていると、その先の取替え費用が積立金の計算にまったく入っていない、ということが起こりえます。

築年数が進んだマンションの計画は「修繕」だけでは足りない

ガイドラインは、建物と設備の性能・機能を新築時と同じ水準に回復させる修繕を基本としつつ、区分所有者の要望などに応じて性能を上げる改良工事も計画に設定するとしています。標準様式には、耐震改修、断熱などの省エネ改修、スロープや手すりの設置、宅配ボックス、インターネット環境の整備といった例が並びます。築30年を超えると「元に戻す」工事だけでは暮らしの不満が解消しないことも多く、改良工事を入れるかどうかで必要な積立額は大きく変わります。

ここを見る

計画表の右端が何年度か。今年から数えて30年以上先まであり、その中に大規模修繕が2回入っているか。管理計画認定制度でも、計画期間が30年以上で残りの期間に大規模修繕が2回以上含まれることが基準になっています。

推定修繕工事費は「数量×単価」。単価がいつのものかを見る

計画に載っている工事費は、工事項目の小項目ごとに数量を出し、単価を掛けて積み上げたものです。数量は、新築なら設計図書や工事の数量計算書、既存マンションなら設計図書に加えて修繕履歴や劣化状況の調査・診断の結果をもとに設定します。項目の粒度はガイドラインの標準様式が参考になり、仮設、屋根防水、外壁塗装、給排水設備、昇降機、立体駐車場など、多くの工事項目に分かれています。

工事項目の例修繕周期の例読むときの注意
外壁塗装・シーリング・床防水12〜15年大規模修繕として足場を共用するため、同時期にまとまる
鉄部塗装(雨掛かり部分)5〜7年大規模修繕の合間に単独で計上されることが多い
給水管・排水管更生19〜23年、取替30〜40年計画期間の外に出ていないか
昇降機(エレベーター)取替26〜30年1基当たりの単価と台数
機械式駐車場補修5年、取替18〜22年使用料会計を別にしているか

国交省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)が集めた366事例の平均では、工事費の中で最も割合が大きいのは外壁塗装等の13.6%、次いで建具・金物等9.7%、仮設工事9.0%、給水設備8.1%でした。足場を組む大規模修繕の工事群と、給排水・エレベーターなどの設備更新が、計画の二本柱だと分かります。

表の周期は同ガイドラインの記載例で、実際の周期は建物ごとの劣化状況で前後します。そして金額の面で見落とされやすいのが単価の時点です。何年前の見積りや資料をもとにした単価なのか、消費税の扱いはどうか。計画書の前提条件の欄に書かれていることが多いので、作成日とあわせて確認してください。

収支表では、残高が一番少なくなる年を探す

計画書の後半には、年ごとの積立金収入、工事費支出、年度末の残高を並べた収支表があります。ガイドラインの標準様式は、計画期間に見込まれる工事費(借入金があればその返済を含む)の累計を、修繕積立金(基金、一時金、駐車場使用料などからの繰入れ、運用益を含む)の累計が下回らないように計画する、という考え方を示しています。

  1. 残高の最低点を探す大規模修繕の年や、エレベーター取替の年に残高が大きく落ち込みます。その最低点がマイナスになっていないか、ゼロすれすれでないかを見ます。
  2. 収入の前提を確かめる表の途中で積立金の単価が上がっていれば、それは将来の値上げを前提にしているということです。何年目にいくら上がる想定なのかを確認します。
  3. 繰入れと一時金を見る駐車場使用料からの繰入れは、空き区画が増えると計画どおり入りません。修繕積立金ガイドラインも、実際の収入を上回る繰入れを見込むのは避けるべきだとしています。一時金や借入れで帳尻を合わせていないかも確認します。

見直しは5年程度ごと。1〜2年かかる前提で動く

ガイドラインは、長期修繕計画を5年程度ごとに調査・診断を行ったうえで見直すこと、あわせて修繕積立金の額も見直すことを求めています。見直しにはおおむね1〜2年かかるため、見直しそのものも計画的に行う必要があるとしています。令和5年度マンション総合調査では、「5年ごとを目安に定期的に見直している」が63.2%、「修繕工事の実施直前」が9.4%、「実施直後」が9.9%、「見直していない」が3.7%でした。

30年以上計画期間(長期修繕計画作成ガイドライン)
5年程度見直しの目安(同)
63.2%5年を目安に定期的に見直している割合(令和5年度マンション総合調査)
  1. 理事会で見直しの必要性を確認前回の作成日、その後の工事履歴、単価の時点を整理します。
  2. 依頼先と費用を決める管理会社、設計事務所、マンション管理士など。調査・診断の範囲と成果物を具体的に決めて見積りを取ります。
  3. 建物の調査・診断劣化状況を確かめ、修繕周期や数量を実態に合わせます。
  4. 計画案と積立金案の作成工事項目・時期・費用、収支表、必要な積立金の額を複数案で示してもらいます。
  5. 説明会と総会決議計画の変更と積立金の額は、標準管理規約ではどちらも総会の決議事項です。

見直しを外部に依頼するときは、成果物の範囲を具体的に決めておくことが肝心です。「長期修繕計画の見直し一式」とだけ書かれた見積りでは、建物をどこまで調査するのか、数量を図面から拾い直すのか、単価をどの資料で更新するのかが分かりません。理事の任期が1〜2年の組合では、見直しの途中で役員が交代することもあるため、修繕委員会など継続して関わる体制をつくっておくと、作業が途切れにくくなります。

管理計画認定制度の現在の基準では、長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われていることが求められます。国交省の資料では、2027年4月1日以降の基準は「申請日前5年以内」に改められ、「修繕積立金の総額が工事費の総額を下回らないこと」も加わる予定です。認定の取得を考えている組合は、見直し時期をこの基準に合わせて逆算しておくと無理がありません。

見直し案を受け取ったら、新旧の差を説明できる形にする

見直し後の計画は、総額が増えた・減ったという結論だけでは住民に伝わりません。前回計画と並べて、何がどれだけ変わったのかを分解して示すことが、総会での納得につながります。

比べる項目前回計画見直し案で確認すること
計画期間終了年度30年以上・大規模修繕2回を満たすか
工事項目項目数追加・削除された項目とその理由
実施時期予定年度前倒し・先送りの根拠(診断結果など)
工事費総額・単価単価の時点、数量の変更、諸経費の率
積立金㎡単価・月額増額の時期と幅、一時金・借入れの有無

とくに注意したいのは、総額が増えた理由が「単価の更新」だけで説明されているケースです。単価が上がっていること自体は珍しくありませんが、数量や工事項目の見直しを伴わない単純な値上げ率の掛け算になっていないか、どの資料の単価を使ったのかは確認しておく価値があります。

作成者にはこう聞く

「総額の増加分を、単価の上昇、数量の変更、工事項目の追加、時期の変更に分けるとそれぞれいくらですか」「前回計画より前倒しにした工事は、どの診断結果に基づいていますか」。この分解ができると、値上げの議論が感覚論になりにくくなります。

見直しで工事費が大きく増えたときは、項目ごとの数量や単価に説明のつかない部分がないかを確かめる余地もあります。その視点は修繕費の見直しと修繕積立金の関係、計画から必要な積立額を出す方法は修繕積立金はいくら必要?で扱います。

長期修繕計画のチェックリスト

作成・見直しの日付前回から5年程度以内か。管理計画認定の基準(現行7年以内)も意識
計画期間今年から30年以上先まであり、大規模修繕が2回含まれているか
工事項目給排水管・サッシ・エレベーターなど大きな取替えが漏れていないか
推定修繕工事費数量の根拠と単価の時点、消費税の扱い
修繕周期診断結果と照らして前倒し・先送りの理由があるか
収支表の最低残高残高がマイナスやゼロ近くになる年がないか
収入の前提将来の増額予定、一時金、借入れ、駐車場使用料の繰入れ額
総会決議計画の内容と、それに基づく積立金の額が総会で決議されているか

チェックで引っかかった項目は、それだけで計画が不適切だという意味ではありません。理由が説明されていれば問題ないことも多いので、まずは作成者に根拠を尋ね、回答を議事録に残しておくことから始めてください。

確認メモを開く・印刷する

無料修繕工事の費用が気になる方へ

その見積もり、本当に適正ですか?

工事項目・数量・単価・諸経費を、無料で確認します。必要な施工と監理は守りながら、理事会で質問すべき点を整理します。

  • 確認は無料
  • 見積書を送るだけ
  • 理事会の判断材料に
無料で見積もりをチェック サービスの内容を見る →

工事費・積立金の引き下げや、施工品質・不正の有無を保証するものではありません。

よくある質問

計画どおりに必ず工事を行う必要がありますか?

必要はありません。ガイドラインも、長期修繕計画は将来の工事の内容・時期・費用を確定するものではないとしています。実施の要否や時期は、工事前の調査・診断の結果で判断します。ただし先送りした場合は、その後の収支や劣化の進行への影響を計画に反映させておくことが大切です。

長期修繕計画の見直しは誰に頼めばよいですか?

管理会社、設計事務所(建築士)、マンション管理士などが一般的な依頼先です。管理会社に任せる場合でも、調査・診断の範囲、成果物、費用を事前に書面で確認します。工事の受注を見込む立場の会社に作成を任せる場合は、単価や数量の根拠を別の専門家に見てもらう方法もあります。

見直しの費用は修繕積立金から出せますか?

標準管理規約のコメントでは、長期修繕計画の作成・変更や、そのための劣化診断の費用は、管理組合の財産状態等に応じて管理費・修繕積立金のどちらからでも充当できるとしています。修繕工事の前提としての診断は原則として修繕積立金からとされています。自分の組合の規約で確認してください。

新築時の長期修繕計画は信頼できますか?

新築時の計画は設計図書などをもとに分譲会社側で作成されたもので、建物が使われ始めてからの劣化状況は反映されていません。段階増額を前提にしていることも多く、引渡し後の最初の見直しで工事費や増額計画が大きく変わることがあります。築5年前後で一度、中身を確認しておくと安心です。

計画を見直すと、必ず積立金の値上げになりますか?

必ずではありません。診断の結果、周期を延ばせる工事が見つかったり、数量を実態に合わせたりして工事費が下がることもあります。ただ、単価の更新や計画期間の延長で工事費の総額が増え、増額が必要になる例が多いのも事実です。結論の前に、増減の理由を項目別に説明してもらうことが大切です。

すべての質問を見る

出典・参考資料

写真:Photo by Isaac Smith on Unsplash、Photo by Eric Rothermel on Unsplash

本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。