大規模修繕の進め方と全体スケジュール
大規模修繕は、準備から工事完成まで一般的に3〜5年かかる長いプロジェクトです。いきなり見積もりを集める前に、検討・計画・実施の3段階で何を決め、いつ総会に諮るのか。想定例の年表とともに、順番と段取りを整理します。
この記事の要点
- 01準備から完成まで一般的に3〜5年程度かかる
- 02調査・診断は計画上の工事時期の2年程度前に
- 03見積りは設計図・仕様書・数量書をそろえて依頼
- 04議案には工事内容・資金計画・選定経緯を示す
この記事の目次

3〜5年がかりのプロジェクトだと最初に共有する
国土交通省の「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)は、改修工事について「準備から工事完成まで一般的に3〜5年程度を要する長期的な取組」と説明しています。足場が立っている期間は数か月でも、その前に調査、設計、資金計画、施工会社選び、総会での合意という長い準備があるからです。
同マニュアルは進め方を「検討段階」「計画段階」「実施段階」の3つに分け、段階を踏みながら合意のレベルを高めていくことを勧めています。理事の任期が1〜2年のマンションでは、工事の途中で担当者が必ず入れ替わります。最初の理事会で全体像を図にして共有し、引継ぎを前提にした記録の残し方を決めておくことが、実は一番効く準備です。
周期・費用相場・発注方式など、スケジュール以外の論点も含めた全体像は大規模修繕工事とは?費用相場・周期・進め方の全体像にまとめています。
検討段階:体制をつくり、建物と住民の声を知る

最初の段階でやることは、「工事をするかどうか」を決めることではなく、判断に必要な材料をそろえることです。マニュアルは、理事会が調査・診断や計画検討の費用を予算化し、理事会の諮問機関として修繕委員会などの検討組織を置くことを勧めています。
修繕委員会を置く
委員会の設置は総会の普通決議で決めるのが一般的です。委員には歴代の理事経験者や、建築・設備に詳しい区分所有者に加わってもらうと検討が進みやすくなります。一方で、委員会はあくまで諮問機関で、方針を決めるのは理事会と総会です。会議の公開や検討状況の定期的な発信など、開かれた運営を心がけると後の合意形成が楽になります。
専門家を選ぶ
調査・診断や設計を依頼する専門家は、複数の候補から見積りと提案を取り、実績や体制も含めて比べるのが基本です。令和3年度実態調査では、設計コンサルタント業務の発注先の選定方法は「見積合わせ方式」が53.3%で最多でした。設計コンサルタント業務の実施期間は「1年半〜2年」が29.0%で最も多く、専門家とは長い付き合いになります。選び方の注意点は発注の注意点の記事で詳しく扱っています。
候補者との面談では、次のような点を聞いておくと比較しやすくなります。
- 「担当する技術者は誰で、どんな資格と同規模マンションの実績がありますか」
- 「調査・診断から工事監理まで、どの業務が見積りに含まれていますか」
- 「施工会社から紹介料や手数料などを受け取る取引はありますか」
調査・診断とアンケート
マニュアルは、調査・診断の時期を「長期修繕計画に定められた工事実施時期の2年程度前」が望ましいとしています。あわせて住民アンケートで不具合や要望を集め、診断結果の説明会を開いて、建物の状態を全員で共有します。この段階の区切りとして、改修を具体的に計画することへの合意(推進決議)を総会で得る方法もあります。区分所有法で定められた手続ではありませんが、合意を段階的に積み上げる効果があります。
計画段階:設計と資金計画をそろえ、施工会社を選ぶ
計画段階では、診断結果をもとに工事の範囲・仕様・数量を決める改修設計を行い、その設計を共通条件にして施工会社から見積りを取ります。マニュアルは、見積りを依頼する相手方に次の資料を示す必要があるとしています。
- 改修工事設計図(改修する範囲)
- 改修工事仕様書(足場の方法、下地処理、材料の種類・量・塗り方など)
- 数量内訳書(工事対象の数量)
- 工期、支払方法、監督・検査の方法など工事の条件(必要に応じて駐車場の使用制限なども)
見積りを依頼する会社は、推薦のほか公募サイトや業界紙での公募で集める方法があり、マニュアルは公正さや透明性の観点から公募が望ましいとしています。応募締切に余裕を持たせる、現地見学の機会を設けるといった配慮も、参加する会社の幅を広げます。具体的な進め方は相見積もりの取り方を参照してください。
見積りが出そろったら
マニュアルは、各社の見積りについて内容・単価・金額を確認し、金額に大きな差がある場合はその理由を確かめること、施工能力や施工体制のヒアリングを別に行うことを挙げています。著しく低い価格を示した会社には、施工品質や工期が確保されているか、積算の前提条件を十分に確認する必要があるとも書いています。見積書のチェックには、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「見積チェックサービス」など、第三者の支援を使うこともできます。
資金計画は設計と並行して
マニュアルは「合意形成の鍵は資金計画にある」と書いています。積立金で足りるのか、借入れや一時金が必要か、借入れた場合に今後の積立金をいくら上げる必要があるのか。工事の中身が固まってから資金を考えると、総会直前に「お金が足りない」ことが分かり、工事範囲の削り合いになりがちです。長期修繕計画の見直しも、この段階で並行して進めます。
総会の議案に書くことを、早めに決めておく
施工会社の候補と工事の内容が固まったら、理事会は総会を招集して工事の実施を諮ります。2026年4月1日施行の改正区分所有法では、大規模修繕工事を実施するための決議は、議決権行使書や委任状による行使を含めた「出席者」の多数決で行えることになりました。招集通知は会日の少なくとも1週間前に、会議の目的と議案の要領を示して出す必要があり、この期間は規約で短縮できません。
マニュアルは、議案の要領として示す内容の例を次のように挙げています。
| 項目 | 具体的に書く内容 |
|---|---|
| 工事の内容 | 工事範囲・内容、工事期間・工程、工事中の生活への影響 |
| 工事費と資金計画 | 総工事費の見積額、積立金の取崩し額、借入れや補助金の活用、借入れ後の積立金の増額 |
| 施工会社の候補 | 選定のプロセスと候補会社の情報 |
総会の場で細かな説明と質疑をすべてこなすのは困難です。総会の前に説明会を開き、出た質問と回答を資料にまとめて配布しておくと、当日の議論が「賛否の確認」に集中します。改修設計の内容を、関心のある人が事前に閲覧できるようにしておく配慮もマニュアルで勧められています。
実施段階:契約から引渡しまで
総会で可決されたら、施工会社と工事請負契約を、設計監理方式なら監理者と工事監理業務委託契約を結びます。マニュアルは、契約書・約款・設計図書などの契約図書が、工事内容や品質水準、工期、費用を確定し、工事後に不具合が出たときの判断の根拠にもなると説明しています。契約前の確認点は契約前に確認したいことを参照してください。
- 施工計画の確定施工会社が工程・仮設・施工の計画を作り、管理組合の意見を踏まえて確定する。
- 工事説明会工事のしおりを配り、工程、作業時間、足場や安全対策、住民へのお願いを説明する。必要に応じて近隣にも事前説明をする。
- 工事報告会管理組合・施工者・監理者で月1回程度集まり、進み具合、問題点、追加・変更工事の承認を確認する。
- 中間検査・竣工検査管理組合が立ち会う中間検査、足場解体前検査を含む竣工検査を行う。
- 引渡し竣工図書、保証書、取扱説明を受け取り、長期修繕計画に工事結果を反映する。
工事が始まると、理事会の仕事は「決める」から「確かめる」に変わります。マニュアルは、発注者である管理組合が主体となって施工者との協議や住民・近隣への対応に取り組み、工事への理解を広げる体制をつくることが重要だとしています。報告会に出る理事を固定する、住民からの問い合わせを受ける担当を決める、議事録を毎回掲示するといった役割分担を、着工前の理事会で決めておきましょう。
工事中の住民対応は大規模修繕中の生活と住民への伝え方、検査と記録の要点は工事の品質を守るために確認したいことで詳しく説明しています。
想定例:築15年での着工から逆算すると
具体的なイメージを持つために、一つの想定例で年表をつくってみます。数字はあくまで例で、戸数や工事範囲、総会の開催月によって必要な期間は変わります。
| 時期 | 主な作業 | 理事会・総会 |
|---|---|---|
| 築11年目の秋 | 資料収集、過去の経緯の確認、進め方の検討 | 理事会で担当決定 |
| 築12年目の6月 | 修繕委員会の設置、診断費用の予算化 | 定期総会で承認 |
| 築12年目の夏〜冬 | 専門家の選定、建物調査・診断、アンケート | 委員会で検討 |
| 築13年目の6月 | 診断結果の説明会、改修基本計画の報告 | 定期総会(推進決議・設計費の予算化) |
| 築13年目の夏〜築14年目の春 | 改修設計、資金計画、施工会社の募集・見積り・ヒアリング | 理事会で候補案を決定 |
| 築14年目の6月 | 工事内容・資金計画の説明会 | 定期総会(工事実施の決議) |
| 築14年目の秋〜冬 | 契約、施工計画の確定、工事説明会 | 理事会で確認 |
| 築15年目の春〜 | 着工、工事報告会、中間検査、竣工検査、引渡し | 月1回程度の報告会 |
定期総会だけで進めると、一つの判断が遅れるたびに1年ずれます。臨時総会を開く可能性を最初から想定し、そのための費用と事務の段取りを予算に入れておくと、日程の組み直しが柔軟になります。
日程が崩れやすい場面と、先回りの一手
スケジュールが崩れる原因は、工事そのものより「決められない」ことにある場合が少なくありません。よくある場面と、先回りの工夫をまとめます。
| 遅れやすい場面 | 先回りの工夫 |
|---|---|
| 理事の交代で検討が止まる | 委員会を理事会と別に置き、議事録と資料の保管場所を一本化する |
| 見積りの前提が各社でばらばら | 設計図・仕様書・数量書をそろえてから見積りを依頼する |
| 総会直前に資金不足が分かる | 設計と並行して、取崩し額と借入れ・一時金の試算を出しておく |
| 一部の住民の強い反対 | 反対の理由を個別に聞き、計画に反映できるかを検討した記録を残す |
| 工事中の追加工事で予算超過 | 契約時に変更の承認手続と予備費の扱いを決めておく |
理事会で使える確認の言い回し
- 「この判断を次の理事会に持ち越した場合、着工時期は何か月ずれますか」
- 「見積りの提出期限は、各社が現地を確認して積算できる日数になっていますか」
- 「総会で否決された場合の代替日程は、どう組み直しますか」
- 「修繕積立金の残高が工事代金の支払時期に足りているか、支払条件と資金繰りの表で確認できますか」
支払条件も日程に関わります。着手金・中間金・完成時の支払の割合と時期は契約で決めるため、積立金の定期預金の満期や借入れの実行日と合わないと、支払の直前に慌てることになります。
「急いで決める」ことと「予定どおりに進める」ことは違います。必要な確認を削って日程を守るより、遅れの原因と影響を住民に説明し、判断の質を保つほうが、結果として工事全体の信頼につながります。
段階ごとの確認リスト
| 検討体制 | 修繕委員会の設置、担当理事、資料の保管場所 |
|---|---|
| 専門家の選定 | 複数候補の比較、施工会社との関係の確認 |
| 調査・診断 | 実施時期、診断範囲、住民アンケート |
| 改修設計 | 工事範囲・仕様・数量が図書にまとまっているか |
| 資金計画 | 取崩し額、借入れ・一時金の要否、積立金への影響 |
| 施工会社の選定 | 募集方法、見積条件、ヒアリング、評価の記録 |
| 総会 | 招集時期、議案の要領、事前説明会 |
| 契約 | 契約図書、変更手続、監理業務の範囲 |
| 工事中・引渡し | 報告会、検査の立会い、竣工図書の受領 |
各段階で「何を決めたか」だけでなく「なぜそう決めたか」を議事録に残しておくと、担当者が交代しても判断の筋道が途切れません。次回の大規模修繕を担う人にとっても、最も役に立つ資料になります。
確認メモを開く・印刷する無料修繕工事の費用が気になる方へ
工事項目・数量・単価・諸経費を、無料で確認します。必要な施工と監理は守りながら、理事会で質問すべき点を整理します。
- 確認は無料
- 見積書を送るだけ
- 理事会の判断材料に
よくある質問
スケジュールの例をそのまま使えますか?
そのままは使えません。戸数、工事範囲、総会の開催月、居住者の状況などで必要な期間は変わります。一律の月数を当てはめるのではなく、自分たちの総会日程と、判断に必要な資料がそろう時期から逆算して組み立ててください。
修繕委員会は必ず設置しなければいけませんか?
法律上の義務ではありません。国土交通省のマニュアルも、小規模なマンションなどでは理事会主導で進めることもあるとしています。ただ、準備に数年かかり理事の交代をまたぐため、継続して関われる委員会を置くと、検討の蓄積が途切れにくくなります。
推進決議は必ず必要ですか?
区分所有法で定められた手続ではありません。ただ、調査結果と基本方針の段階で総会の合意を得ておくと、設計費の支出に根拠ができ、最終の工事決議に向けた合意も積み上げやすくなります。規模の大きい工事や意見が分かれそうな場合には有効な方法です。
工事期間中に総会の決議が必要になることはありますか?
工事の中身が総会で決めた範囲を大きく超える場合や、予算を大幅に超える追加工事が必要になった場合は、改めて総会に諮る必要が出てくることがあります。どこまでを理事会の判断に委ねるかは、工事実施の議案の中で、予備費の額や変更の承認手続とあわせて決めておくと安心です。
工事の決議はいつから出席者の多数決になったのですか?
改正区分所有法が施行された2026年4月1日からです。ただし、施行日前に招集手続を始めた集会には改正前の規律が適用される経過措置があります。規約の定めが改正法と合わない場合もあるため、判断に迷うときはマンション管理士などに確認してください。
出典・参考資料
- 国土交通省|マンション改修マニュアル(令和8年3月改訂) ↗
- 国土交通省|令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査(報告書) ↗
- 法務省民事局|区分所有法・被災区分所有法の改正について(令和8年4月) ↗
- 国土交通省|長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定) ↗
写真:Photo by taro ohtani on Unsplash、Photo by Max Anderson on Unsplash
本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。