修繕工事の契約前に確認したいこと
見積もりで話した内容が、契約でもきちんと守られるか。総会決議、契約書に綴じる書類、約款と改正建設業法、追加工事と支払いの手順、談合違約金特約、保証と保険まで、署名の前に確かめたい点を整理します。
この記事の要点
- 01総会で工事の実施と積立金の取崩しを決議してから契約
- 02契約書・約款・内訳・仕様・質疑回答を一式でそろえる
- 03追加工事と支払いは「書面で確認してから」を原則に
- 04談合違約金特約と保証・保険の中身を契約前に確かめる
この記事の目次

契約の前に、総会で決めておくこと
施工会社が決まると、すぐにでも契約したくなるものです。けれども大規模修繕の契約は、多くの場合、管理組合の総会決議を経てから結ぶことになります。マンション標準管理規約(令和7年改正)第48条は、計画修繕などの「特別の管理」の実施と、そのための修繕積立金の取崩しや借入れを総会の決議事項としています。
総会の議案書には、少なくとも施工会社名、契約予定金額、工期、工事の範囲、修繕積立金の取崩し額を載せます。追加工事に備えて予備費を設ける場合は、その金額と使い方(誰が承認するか)も書いておくと、工事中に判断に迷いません。

決議要件にも注意が必要です。2026年4月1日施行の改正区分所有法にあわせた標準管理規約第47条では、形状または効用の著しい変更を伴わない工事は普通決議(議決権総数の過半数を有する組合員が出席し、出席組合員の議決権の過半数)、著しい変更を伴う工事は出席組合員とその議決権の各4分の3以上の特別決議とされています。自分たちの規約がどうなっているかも確認してください。議案の準備は総会の進め方と準備で詳しく扱っています。
契約に至るまでの検討・設計・選定の流れは、大規模修繕工事の進め方と費用相場の解説で段階ごとにまとめています。
契約は「契約書1枚」ではなく、書類のセット
工事請負契約は、契約書の表紙に書かれた金額と工期だけで成り立っているわけではありません。約款、見積内訳書、仕様書や図面、工程表、見積時の質疑回答書などが一体となって、はじめて「何をいくらで、どこまでやるか」が決まります。
書類をそろえるときの確認ポイント
- 見積内訳書は、再見積もりや値引きを反映した最終版か。日付と版数が書かれているか
- 契約金額と見積内訳の合計が一致しているか。値引きがどの項目に反映されたか分かるか
- ヒアリングで約束された事項(現場代理人の常駐、写真記録、住民説明会など)が、どの書類に書かれているか
- 質疑回答書の内容が、仕様書や内訳書と食い違っていないか
- 工程表に、ベランダ工事や騒音の大きい作業の時期が示されているか
口頭で約束されたことは、契約書類のどこにも書かれていなければ、後で「言った・言わない」になりがちです。「ヒアリングでお話しいただいた〇〇は、どの書類に反映されていますか」と、一つずつ確認するのが確実です。
契約書の表紙で必ず見る項目
建設業法は、建設工事の請負契約を書面で結び、請負代金の額や工期などの事項を記載することを求めています。表紙(契約書本体)では、工事名と工事場所、工期(着工日と完成日)、請負代金額と消費税、支払いの時期と方法、契約不適合責任や保証の扱い、監理者の氏名、特記事項を確認します。特記事項の欄は、個別の約束を書き込むための大切な場所です。空欄のまま署名しないようにしましょう。
約款と法律が求めていることを知っておく
民間工事の代表的な契約書類の一つに、「民間(七会)連合協定 工事請負契約約款」があります。変更や損害、解除、契約不適合などのルールをまとめたひな形で、2025年12月12日に改正され、改正版の販売は2026年2月以降と案内されていました。
この約款には大事な前提があります。約款委員会は、この約款が発注者が別に監理業務を委任した「監理者」がいることを前提に作られていると説明しています。監理者を置かない責任施工方式でこの約款を使う場合は、約款で監理者の役割とされている事項を、発注者と受注者の間で別に取り決める必要があります。
改正建設業法で加わったルール
令和6年の建設業法改正(令和6年12月13日施行分)では、資材価格の高騰などに備えて、次の点が定められました。
- 請負代金の変更方法を、契約書の法定記載事項に追加
- 受注者は、資材の高騰や不足のおそれがある情報(おそれ情報)を契約前に注文者へ通知
- おそれ情報が現実になった場合、受注者は請負代金などの変更協議を申し出ることができ、注文者は誠実に協議に応じるよう努める
管理組合も「注文者」にあたります。契約書に変更方法がどう書かれているか、契約前におそれ情報の通知を受けたかを確認しておくと、工事中に資材価格が動いたときの話し合いがスムーズになります。
「この契約で使う約款はどれで、どの年の版ですか。条文を変更している箇所はありますか」「契約前に通知すべき資材価格や供給のおそれ情報はありますか。あれば書面でいただけますか」「請負代金の変更方法は、契約書のどの条項に書かれていますか」
追加・変更工事と支払いのルールを決める
大規模修繕では、足場を組んでから外壁を調べると、補修が必要な箇所が見積もりの数量より増えたり減ったりします。これは珍しいことではなく、だからこそ精算のルールを契約前に決めておくことが大切です。
- 数量の確認施工会社が調査結果を示し、設計監理者が数量を確認します。写真と図面上の位置を記録に残します。
- 単価の確認契約時に決めた単価で精算するのが原則です。単価のない工事は、先に見積書を出してもらいます。
- 承認誰がいくらまで承認できるか(理事会、理事長、予備費の範囲など)を事前に決めておきます。
- 変更契約金額や工期が変わる場合は、書面で変更契約を結びます。工事が終わってからまとめて精算、は避けたい形です。
支払いは「確認してから払う」
支払い方法は、着工時の前払い、工事途中の部分払い(中間払い)、完成後の支払いなどを組み合わせて契約で決めます。部分払いをする場合は、出来高(工事の進み具合)を監理者が確認した後に支払う流れにしておくと安心です。前払いを大きくする場合は、施工会社が途中で工事を続けられなくなったときに備え、保証の有無も確認してください。
工期の変更も同じように扱います。天候や住民の都合、追加工事によって工期が延びる場合、延長の理由と日数、仮設費用など追加の費用が発生するかどうかを書面で確認し、変更契約に反映させます。工期の延長は、洗濯物を干せない期間が延びるなど住民の生活に直結するため、住民へのお知らせの方法も合わせて決めておきます。
談合違約金特約を、契約に入れておく
国土交通省は令和7年6月26日付の事務連絡で、マンション修繕工事の請負契約に、談合があった場合に受注者が違約金を支払う「談合違約金特約条項」を設けることが可能だと周知しました。2026年9月28日の周知文書でも、公取委の命令を受けた事案を踏まえ、この取組を参考にするよう管理組合に呼びかけています。
事務連絡に示された例文では、この契約に関して受注者に独占禁止法違反の課徴金納付命令や排除措置命令が確定した場合などに、請負代金額の一定割合(例文では「○%」)を違約金として支払うとされています。国の直轄工事の契約書では、この割合は10分の1です。例文にはほかに、該当する事実が起きたときの受注者の通知義務、支払いが遅れた場合の年3%の遅延利息、実際の損害が違約金を超える場合に超過分の賠償を請求できることも盛り込まれています。
見積要項の段階で「契約時に談合違約金特約を付ける予定」と示しておくと、契約直前の交渉になりません。国交省は、特約を設けても訴訟や不払いのリスクは残るとして、設定にあたっては弁護士など専門家に相談するよう勧めています。
なお公取委の命令では、命令の対象となった施工業者は、命令に基づいて取った措置を、対象工事を発注した管理組合に通知しなければならないとされています。過去の工事について心配がある場合は、公取委の公表資料や国交省の相談窓口を確認してください。
特約がない過去の契約でも、管理組合が損害を受けていた場合に何ができるかは、契約内容や事実関係によって変わります。通知を受け取ったときは、理事会だけで結論を出さず、弁護士などの専門家に相談して対応を検討してください。
保証・保険・引渡し書類で、工事後に備える
工事が終わった後に不具合が見つかったとき、頼りになるのは契約で決めた保証と保険です。国交省の案内では、大規模修繕工事瑕疵保険は施工会社が加入し、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分、給排水管路などの瑕疵が対象で、保険期間は対象部分などによって1〜10年とされています。填補率は事業者へ80%、事業者が倒産した場合などは発注者へ100%です。
保険とは別に、施工会社が独自の保証書を出す場合もあります。部位ごとの保証期間、保証の対象外になる条件、定期点検の時期を、契約前に書面で確認します。民法では、請負の目的物が契約内容に適合しない場合、注文者はそれを知った時から1年以内に請負人へ通知しないと、原則として責任を追及できなくなるとされています。点検の結果や住民からの不具合の連絡は、日付とともに記録しておきましょう。
引渡しで受け取る書類
- 竣工図・完成図書(使った材料や工法、補修した位置)
- 工事写真(特に仕上げで見えなくなる下地補修やシーリング)
- 検査記録と是正の記録、保証書、保険付保証明書
- アフター点検の予定表と連絡先
これらは次回の大規模修繕の診断や長期修繕計画の見直しで必ず使います。紙とデータの両方で保管場所を決めておくと、理事が交代しても引き継げます。
アフター点検は「立ち会って記録する」
引渡し後の定期点検は、施工会社任せにせず、理事や修繕委員が立ち会うのが理想です。点検の前に住民から不具合の情報を集め、当日はその箇所も見てもらいます。点検結果と是正の約束は書面でもらい、保証期間や保険期間の終わりが近い部位は、期限前に重点的に確認しておくと、見落としによる自己負担を減らせます。
想定例:契約直前の最終チェックで見つかったこと
最終チェックは、施工会社や設計監理者を疑うためのものではありません。関わった人が多いほど、書類の版がずれたり、約束が書き漏れたりするのは起こり得ることです。契約書の案は総会の1週間前までに受け取り、理事会で読み合わせる時間を確保しておくと落ち着いて確認できます。
契約の法的な判断に迷う点があれば、契約書と事情を示して弁護士やマンション管理士、建築士などの専門家に確認してください。見積もりの内容そのものに不安が残る場合は、住まいるダイヤルの見積チェックサービス(無料)も、国交省が案内する相談先の一つです。
工事請負契約の前の確認リスト
| 総会決議 | 工事の実施と修繕積立金の取崩しを決議したか |
|---|---|
| 契約金額 | 契約金額と最終版の内訳書の合計が一致しているか |
| 契約書類 | 約款・内訳書・仕様書・図面・工程表・質疑回答がそろっているか |
| 口頭の約束 | ヒアリングでの約束がどの書類に書かれているか |
| 約款と監理者 | 監理者の有無に合わせて約款の扱いを決めたか |
| 変更方法 | 請負代金の変更方法と、おそれ情報の通知を確認したか |
| 追加工事 | 数量確認・単価・承認者・変更契約の手順を決めたか |
| 支払条件 | 出来高を確認してから支払う流れになっているか |
| 談合違約金特約 | 特約の有無と割合を専門家と相談して決めたか |
| 保証・保険 | 保証書・瑕疵保険・点検時期・引渡し書類を確認したか |
確認できなかった項目は「未確認」として残し、契約日までに誰が確認するかを決めておきましょう。
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よくある質問
契約の法的な判断もこのページでできますか?
このページは、契約の前に確認したい視点を整理した一般的な情報です。個別の契約の有効性や条文の解釈といった法的判断は、契約書と事情を示して弁護士などの専門家に確認してください。談合違約金特約についても、国交省は専門家への相談を勧めています。
約款は施工会社が用意したものをそのまま使ってよいですか?
使うこと自体は問題ありませんが、どの約款か、どの版か、発注者に不利な変更が加えられていないかを確認しましょう。民間(七会)約款は監理者の存在を前提にしているため、監理者を置かない場合は役割の取り決めが別に必要です。
工事中に資材価格が上がったら、追加で払う必要がありますか?
契約書に定めた請負代金の変更方法によります。改正建設業法では、受注者は契約前におそれ情報を通知し、実際に高騰した場合は変更協議を申し出ることができ、注文者は誠実に協議に応じるよう努めるとされています。契約前に変更方法の条文を確認しておきましょう。
契約書には誰の名前で署名しますか?
標準管理規約では、理事長が管理組合を代表し、区分所有法上の管理者とされています(第38条)。一般には、総会決議に基づき理事長が管理組合を代表して契約します。自分たちの規約で代表者や手続きがどう定められているかを確認してください。
談合違約金特約を入れると、参加する会社が減りませんか?
特約は談合があった場合のみ適用されるもので、適正に競争する会社にとって不利なものではありません。見積要項の段階で予定を示しておけば、各社は前提として理解したうえで参加を判断できます。割合などの具体的な設定は専門家と相談してください。
出典・参考資料
- 国土交通省|マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について(令和8年9月28日・談合違約金特約条項に関する事務連絡を含む) ↗
- 公正取引委員会|関東地区所在のマンションの大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について(令和8年9月28日) ↗
- 民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会|工事請負契約約款(2025年12月改正版) ↗
- 国土交通省|建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について ↗
- 国土交通省|大規模修繕工事瑕疵保険の概要 ↗
- 国土交通省|マンション標準管理規約(令和7年改正) ↗
写真:Photo by Amina Atar on Unsplash、Photo by Thomas Kinto on Unsplash
本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。