工事の品質を守るために確認したいこと

安くすることだけを目的にしない。大規模修繕の品質は、仕様・人・時間・監理・記録の条件がそろって初めて守られます。監理者の役割、見えなくなる前の確認と記録、追加工事の承認、竣工検査と引渡しの要点を整理します。

まず押さえたいこと:見えなくなる前に、誰が確認するかを決める

この記事の要点

  1. 01価格の適正さと品質は、別々に確かめる
  2. 02監理の頻度・方法・報告の形を契約で具体的に
  3. 03足場解体前検査の日程を工程表で必ず確保する
  4. 04追加・変更工事は理由・数量・単価を書面で承認
この記事の目次
屋上で溶接作業をする作業員

価格の正しさと、工事の品質は別の問題

2026年9月28日、公正取引委員会は関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐり、設計コンサル業者と施工業者による受注調整に排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。公表資料が問題にしたのは、競争がゆがめられ、受注者と見積価格が事前に決められていたことです。発注の手続の注意点は発注の注意点の記事で整理しています。

一方で、管理組合にとって気がかりなのは「では工事の中身は大丈夫だったのか」という点でしょう。価格が適正であることと、工事が仕様どおりに行われることは、別々に確かめる必要があります。受注の過程に問題がなくても、監理や検査が弱ければ品質は守れませんし、逆に安く発注できても、必要な工程が省かれていれば意味がありません。

住民から「この工事は手抜きではないか」と聞かれたときに、根拠を持って答えられるかどうかも、品質を守る仕組みがあるかの試金石です。検査の記録や写真を示して説明できれば、不安は具体的な確認に変わります。

国土交通省の「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)は、著しく低い価格を示した会社には、施工品質や工期が適切に確保されているか、積算の前提条件を十分に確認する必要があるとしています。高いから安心、安いから不良という単純な判断はできません。品質は、仕様・人・時間・監理・記録という条件がそろって初めて守られます。

品質の確認が、検討から工事後までの流れのどこに入るのかは、大規模修繕工事の全体像をまとめた記事で全体像を示しています。

品質を左右する5つの条件

道路脇の工事現場で作業する作業員とダンプトラック
施工中の確認は、仕上がってからでは見えなくなる部分ほど重要です

見積書の金額の裏には、どんな材料を、誰が、どれだけの時間をかけて施工し、誰が確認するのかという前提があります。契約前に、次の5つの条件がそろっているかを確かめます。

条件確認したいこと見る書類
仕様材料の種類、塗り回数、工法、下地処理の方法が明記されているか仕様書、見積内訳書
人現場代理人の経験、専門工事会社の体制、社会保険の加入施工体制の資料、ヒアリング記録
時間工程ごとに必要な日数、乾燥や養生の期間が確保されているか工程表
監理誰が、どの頻度で、どの工程を確認するか工事監理業務の契約書、監理計画
記録写真、検査、数量の記録を何の形で残すか施工計画書、報告書の様式

「人」に関わる費用として、国土交通省は法定福利費(社会保険料の会社負担分)が内訳として明示された見積書を参考に、その相当額を適切に含んだ金額で契約するよう管理組合に求めています。2020年(令和2年)10月からは、建設業者の社会保険への加入が建設業許可・更新の要件になりました。法定福利費を削って安くなった見積りは、品質の面からも注意が必要です。

令和3年度実態調査で施工会社を決めた際の評価事項を見ると、「工事金額」を挙げた回答が最も多く、次いで「施工業者の実績」「現場代理人予定者の実績」でした。現場代理人は工事の品質と住民対応の要になる人です。ヒアリングでは会社の実績だけでなく、実際に現場を担当する人の経験を確かめましょう。

監理者の役割を、契約で具体的にしておく

マニュアルは、工事の進み具合や施工状況を厳正にチェックする「監理」の役割を「非常に重要」としています。設計監理方式であれば設計コンサルタントが、責任施工方式であれば施工会社の中の監理部門などが、この役割を担います。

令和3年度実態調査によると、設計コンサルタント業務の業務量のうち、工事監理が47.9%と最も大きな割合を占めていました。調査・設計よりも、工事中の確認に多くの時間が使われているということです。逆に言えば、監理の中身が契約で曖昧なままだと、品質を守る仕組みの大部分が見えないことになります。

決めておきたい項目具体的な内容の例
現場に来る頻度週何回、何時間程度か。重要な工程の立会いの有無
確認の方法目視、計測、試験、写真の確認のどれを、どの工程で行うか
報告の形報告会での報告書、写真の枚数や撮影箇所
変更への関わり追加・変更工事の妥当性と金額の確認
検査の立会い中間検査、足場解体前検査、竣工検査への参加

責任施工方式では、設計・施工・監理を同じ会社が担うため、確認する人と施工する人が同じ組織になります。マニュアルは、この方式では工事内容と費用内訳の関係が不明瞭になりやすいとし、検討結果の適切な情報開示や費用内訳の提示を受けることが重要だとしています。監理の担当者が現場の施工部門とは別の人か、報告を管理組合に直接出してもらえるかを確認しておきましょう。

監理者にはこう聞いてみる

  • 「下地補修の数量は、誰がどのように確認して承認しますか」
  • 「塗装の各工程の完了は、写真以外に何で確認しますか」
  • 「施工会社の自主検査の結果と、監理者の検査の結果は、別々に報告してもらえますか」

見えなくなる前に、確認と記録を

着工前、施工中、中間、足場解体前、竣工、引渡しの6つのタイミングと、それぞれの確認内容、記録として残したいものを示した図
出典:国土交通省「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)の実施段階の記載をもとに編集部作成

大規模修繕の品質で難しいのは、下地補修や下塗りのように、完成すると見えなくなる工程が多いことです。仕上がりがきれいでも、その下で必要な作業が行われたかは後から確かめられません。だからこそ、見えなくなる前に確認し、記録を残す仕組みを着工前に決めておきます。

マニュアルは、工事中に管理組合・施工者・工事監理者による工事報告会を月1回程度開き、進み具合と施工状況の確認、問題への対策、追加・変更工事の検討・承認を行うとしています。検査についても、適切なタイミングで管理組合立会いのもと中間検査を行い、最終工程を終えた時点で足場解体前検査と最終検査からなる竣工検査を行うとしています。

  1. 着工前施工計画書と工程表で、検査の時期と記録の様式を確認する。
  2. 下地補修補修箇所の位置と数量を図面と写真で記録し、当初の想定数量との差を報告してもらう。
  3. 塗装・防水工程ごとに、使った材料と施工した面・日付が分かる写真を残す。
  4. 足場解体前高い位置の仕上がりを、足場があるうちに検査し、指摘箇所の手直しを確認する。
  5. 竣工施工者・監理者・管理組合がそれぞれ検査し、指摘と是正の結果を一覧にする。

写真は「後から確かめられる」撮り方で

工事写真は枚数が多ければよいわけではありません。どの面の何階のどこか、どの工程の前か後か、いつ撮ったかが分かることが大切です。部位と工程を書いた黒板を写し込む、補修箇所の番号を図面と対応させる、といった撮り方をあらかじめ施工会社と決めておくと、竣工図書を受け取った後も記録として使えます。

注意足場を解体した後に高所の不具合を見つけても、手直しにはゴンドラなど別の仮設が必要になり、費用や日程の調整が難しくなります。足場解体前検査の日程は、工程表の中で必ず確保してください。

追加・変更工事は、口頭で進めない

工事中に必要な補修が増えるのは珍しいことではありません。足場を組んで初めて分かる劣化もあります。問題は、増えることそのものより、承認の手続が曖昧なまま進んでしまうことです。マニュアルは、契約図書の内容が不十分だと、工事中の解釈の違いや追加工事をめぐる紛争、品質の低下が起きるおそれがあると指摘しています。

変更を承認する前に確認すること

  • 変更の理由(新たに見つかった劣化か、当初の設計の漏れか)
  • 数量と単価、その根拠(契約時の単価表との関係)
  • 工程と工期への影響
  • 減らせる工事や、次回に回せる工事はないか
  • 誰が承認できるか(理事会の権限か、総会の承認が必要か)

どこまでを理事会の判断に委ねるかは、工事を決める総会の議案の中で、予備費の額や変更の手続とあわせて決めておくと安心です。減額になる変更も、同じ手続で記録しておきます。

竣工検査と引渡し、そしてその後

竣工検査では、施工者の自主検査、監理者の検査に加えて、管理組合も検査を行います。マニュアルはこの3者による検査を挙げています。管理組合の検査といっても専門的な判定までは求められません。共用廊下やバルコニーの仕上がり、汚れや傷、住民から寄せられた指摘の箇所を、理事や修繕委員が実際に見て回ることに意味があります。

引渡しの際には、竣工図書(工事の記録や完成図)、保証書、使用した材料の一覧、取扱いの説明を受け取ります。マニュアルは、竣工後できるだけ速やかに竣工図書の引渡しを受けるよう求めています。これらは次の大規模修繕の出発点になる資料です。

  • 竣工図書と工事写真の保管場所を決め、目録をつくる
  • 部位ごとの保証期間と、アフター点検の時期を一覧にする
  • 工事結果を長期修繕計画に反映し、次回の時期と費用を見直す

アフター点検で見ておきたいところ

  • 塗装のはがれや膨れ、シーリングの切れ
  • 屋上やバルコニーの防水層の浮き、排水口まわりの水たまり
  • 工事後に住民から寄せられた雨漏りや汚れの報告

工事請負契約では、契約不適合責任の履行を確保するための保険などの措置、保証の内容、アフターメンテナンス、紛争の解決方法を契約内容として定めておくことが重要だとマニュアルは述べています。国土交通大臣が指定した保険法人の大規模修繕工事瑕疵保険は、保険期間が対象部分により1〜10年とされ、施工した事業者が倒産した場合などは発注者に保険金が支払われます。加入の有無は契約前に確認しておきましょう。

書類の確認でできること、できないこと

見積書や仕様書の確認は、品質を守るための出発点です。工事範囲の抜け、仕様の曖昧さ、必要な工程が見積りに入っているか、法定福利費が含まれているかといった点は、書類の段階で確認できます。公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「見積チェックサービス」(無料)のような公的な仕組みもあります。

一方で、書類の確認だけでは、実際に現場で仕様どおりの施工が行われたかを保証することはできません。下地の状態や塗膜の厚さ、防水層の仕上がりといった点は、現場での確認と検査が必要です。施工中の確認を誰に任せるのか、監理者の業務で足りるのか、第三者の検査を別に頼むのかは、工事の規模や管理組合の体制に応じて選びます。

ポイント

必要な施工や正当な監理の費用まで削ってしまうと、結果として修繕の周期が短くなり、長い目で見た負担が増えることがあります。費用の見直しは、品質を守る条件を確かめたうえで行うことが前提です。見直しの考え方は必要な品質を守りながら修繕費を見直すで解説しています。

品質を守るための確認リスト

仕様材料・塗り回数・工法・下地処理が仕様書に明記されているか
施工体制現場代理人の経験、社会保険の加入、法定福利費の明示
工程乾燥・養生の期間、検査の日程が工程表にあるか
監理頻度、確認方法、報告の形、検査への立会い
記録写真の撮り方、数量の記録、報告書の様式
変更管理理由・数量・単価・工程への影響、承認の権限
検査中間検査、足場解体前検査、竣工検査の実施
引渡し竣工図書、保証書、アフター点検の予定
保険大規模修繕工事瑕疵保険の加入の有無と対象範囲

確認した結果は、工事報告会の議事録とあわせて保管してください。工事後に不具合が見つかったとき、どの工程で何を確認したかの記録が、原因の特定や保証の請求の根拠になります。

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よくある質問

無料の見積チェックで工事の品質を保証できますか?

書類の確認だけでは、実際の施工状態を保証することはできません。見積りや仕様の確認は、工事範囲の抜けや曖昧な点を減らすための出発点です。現場での検査や調査が必要な事項は、監理者の業務や第三者による検査として別に整理する必要があります。

管理組合の役員が検査に立ち会っても、専門的なことは分かりません。意味はありますか?

意味はあります。専門的な判定は監理者に任せるとしても、住民から寄せられた不具合の箇所を一緒に確認したり、指摘事項が是正されたかを見届けたりすることはできます。発注者が現場を見ているという事実そのものが、工事に対する緊張感にもつながります。

追加工事の費用は、どこまで理事会で決めてよいのですか?

管理規約と、工事を決めた総会の決議の内容によります。予備費の額や、理事会が承認できる変更の範囲を総会の議案で定めておく方法があります。範囲を超える場合や判断に迷う場合は、臨時総会を開くか、マンション管理士などの専門家に相談してください。

第三者の検査を別に頼むべきですか?

必ずしも必要ではありません。設計監理方式で監理者の業務が契約で具体的に決まっていれば、その確認が品質を守る中心になります。責任施工方式で監理も施工会社の中で行う場合や、監理の中身に不安がある場合は、重要な工程に絞って第三者の確認を頼む方法も考えられます。

工事後すぐに不具合が見つかったらどうすればよいですか?

まず写真と日時を記録し、施工会社と監理者に連絡して現地の確認を求めます。契約書と保証書で、対象となる部位と保証期間を確認してください。対応に納得できない場合は、住宅リフォーム・紛争処理支援センターの住まいるダイヤルなど、公的な相談窓口に相談できます。

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出典・参考資料

写真:Photo by SLNC on Unsplash、Photo by PJH on Unsplash

本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。