修繕積立金が不足する理由を整理する

「積立金が足りない」の一言には、値上げの見送り、工事費の上昇、計画外の修繕、滞納など、性質の違う原因が混ざっています。原因を分け、いつ・いくら足りないかを数字にしてから、対応策を比べる手順を解説します。

まず押さえたいこと:計画と実績のどこで差が出たかを分ける

この記事の要点

  1. 01計画に対して不足しているマンションは36.6%
  2. 02原因は値上げ見送り・工事費上昇・計画外工事・滞納など
  3. 03「いつ・いくら」足りないかを収支表で特定する
  4. 04借入れも一時金も将来の負担。複数案を並べて比べる
この記事の目次
倒れたガラス瓶から硬貨がこぼれている様子

「不足」には2つの意味がある

修繕積立金の不足という言葉は、2つの違う状態を指して使われます。一つは、長期修繕計画で予定していた残高に、実際の残高が届いていない「計画に対する不足」。もう一つは、計画どおりに積み立てても、将来の工事費をまかなえない「計画そのものの不足」です。前者は収入側の問題、後者は計画の前提の問題であることが多く、打ち手が変わります。

国土交通省「令和5年度マンション総合調査」では、長期修繕計画を定めて積み立てている管理組合のうち、残高が計画に対して不足しているのは36.6%、不足していないのは39.9%、不明が23.5%でした。不足の内訳を見ると、5%以下の不足が18.3%と最も多い一方、20%を超える不足も11.7%あります。

長期修繕計画上の積立額と実際の積立額の差を示す帯グラフ。不足していない39.9%、不足36.6%(5%以下18.3%、5%超10%以下2.9%、10%超20%以下3.7%、20%超11.7%)、不明23.5%
計画上の修繕積立金の積立額と実際の積立額の差(n=1,402)。出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」

見落とせないのは「不明」の23.5%です。計画と実績を比べる作業自体がされていない組合が4分の1近くあるということで、不足かどうか分からない状態が、実はいちばん対応が遅れやすいとも言えます。

不足が表面化しやすい大規模修繕工事の費用相場と、借入れ・一時金を含む資金の選択肢は、大規模修繕工事の全体像をまとめた記事でも整理しています。

不足が生まれる主な原因

原因は一つとは限りません。次の表で、自分のマンションに当てはまるものがないか確認してみてください。

原因起きていること確認する資料
段階増額の見送り計画にあった値上げが総会で否決・延期された過去の総会議事録、計画の収入欄
工事費の上昇計画作成時の単価より実際の見積りが高い計画の作成日と単価の時点、最新の見積書
計画外の工事漏水や設備故障で予定外の修繕が発生した修繕履歴、決算書の取崩し明細
計画期間外の工事給排水管やサッシの取替えがそもそも計画に入っていない計画表の工事項目と終了年度
繰入れの過大見込み駐車場の空きで使用料収入が計画を下回る駐車場の契約台数と繰入額の推移
滞納払われていない積立金が積み上がっている滞納一覧、督促の記録

国交省は令和6年6月の修繕積立金ガイドラインの改定で、長期修繕計画を定期的に見直す理由に「工事費の高騰等」を書き加えました。数年前の単価で作られた計画は、それだけで実態との差が生じている可能性があります。

新築時の設定も一因になりえます。令和5年度の同調査では、2015年以降に完成したマンションの81.2%が段階増額積立方式でした。当初の低い月額から予定どおり引き上げられなければ、その時点で計画に対する不足が始まります。滞納も軽視できず、同調査で3か月以上の滞納がないマンションは62.1%にとどまります。

白い背景に置かれた、黒い砂が落ちる砂時計
不足への対応は、次の工事までの残り時間で選べる手段が変わる

いつ、いくら足りないのかを数字にする

「足りない」と感じたら、次の工事ごとに不足額と時期を特定します。対応策を選ぶのはそのあとです。

  1. 収支表を最新の数字に置き換える今年度末の実際の残高、現在の積立金収入、最新の見積りや単価で、長期修繕計画の収支表を更新します。
  2. 工事ごとに残高を確認する大規模修繕、エレベーター取替、給排水管工事など、大きな支出の年ごとに、工事直前と直後の残高を並べます。
  3. 最初に足りなくなる年と額を出すいちばん早く残高がマイナスになる年度と、その不足額を特定します。
  4. その後の不足も確認する最初の不足を一時的にしのいでも、次の工事で再び不足しないかを計画期間の最後まで見ます。
管理会社にはこう聞く

「計画上の予定残高との差額を、値上げの見送り、工事費の差、計画外の支出、滞納、繰入れの不足に分けると、それぞれいくらになりますか」「最新の単価で収支表を引き直した場合、最初に残高がマイナスになるのは何年度ですか」。この2つの回答がそろえば、理事会で議論する材料はほぼ整います。

このように原因ごとの金額が分かると、対応の優先順位が見えてきます。工事費の差が大きければ見積りの内容を点検する余地を検討し、見送りの影響が大きければ積立金の水準そのものを見直す、という具合です。

対応策を並べて比べる

不足への対応は、大きく分けて「収入を増やす」「支出の時期や範囲を変える」「支出の中身を点検する」の3方向です。1つに絞るより、組み合わせて考えることが多くなります。

対応策想定例での規模感気をつけたいこと
積立金の増額4年後以降の不足も含めて水準を見直す今回の工事には間に合わない。長期の不足対策
一時金の徴収6,000万円÷60戸=1戸100万円家計への影響が大きく、合意と徴収が難しい
借入れ6,000万円を10年返済なら元金だけで月50万円返済中は積立金収入の多くが返済に回る
工事時期・範囲の調整診断結果に基づき一部を次回に回す安全や漏水に関わる部分は先送りしない
工事費の点検数量・単価・諸経費に説明のつかない部分がないか必要な施工と監理は削らない

一時金を検討するときの目安

一時金は、借入れと違って利息がかからず、将来に返済を残さない点が利点です。一方で、1戸100万円といった額を短期間に集めるのは、多くの世帯にとって簡単ではありません。管理計画認定制度の基準にも「将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと」があり、長期修繕計画に最初から一時金を組み込むことは望ましくないとされています。使うとしても、今回の不足を埋める臨時の手段と位置づけ、同時に積立金の水準を見直して再発を防ぐ、という組み合わせが基本です。

借入れを検討するときの目安

管理組合向けの代表的な融資に、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る融資」(マンション共用部分リフォーム融資の愛称)があります。同機構が示す主な利用条件は、修繕積立金が1年以上定期的に積み立てられ、滞納割合が原則10%以内であること、毎月の返済額が毎月徴収する修繕積立金の額の80%以内であること、返済期間は原則1年以上10年以内(一定の工事は20年以内)であることなどです。全期間固定金利で、マンション管理センターなどの保証を使えば担保は不要とされています。

想定例に当てはめると、毎月の積立金収入90万円の80%は72万円。6,000万円を10年で返すと元金だけで月50万円、これに利息が加わります。条件の範囲に収まる可能性はありますが、返済が続く10年間、積立金収入の半分以上が返済に回り、4年後のエレベーター取替えの資金が別に必要になります。借入れは不足を「なくす」のではなく「将来に移す」手段だということを、数字で共有しておくことが大切です。

管理計画認定制度では「計画期間の最終年度に借入金の残高がないこと」も基準になっています。返済期間を長くとるほど毎月の負担は軽くなりますが、計画期間内に返し終わる設計になっているかも確かめておきます。

注意金利や保証料、融資の可否は審査と申込み時点の条件によります。借入れには総会での決議(借入額、返済期間、返済に修繕積立金を充てることなど)が必要です。個別の判断は、機構の窓口やマンション管理士などの専門家に確認してください。

工事を減らすなら、安全と劣化の状態から順番をつける

資金が足りないとき、「今回は外壁だけ」「屋上防水は次回に」と工事を絞る案が出ることがあります。調査・診断の結果に基づいて順番をつけるなら合理的な選択になりえますが、資金の都合だけで削ると、後でより高くつくことがあります。

  • 先送りしにくいもの外壁タイルの浮きや剥落のおそれ、手すりの腐食など人の安全に関わるもの。漏水が起きている防水。
  • 時期を検討できるもの劣化が軽微と診断された部位の塗装、美観中心の改修、性能向上のための改良工事。
  • まとめたほうが安いもの足場を使う工事。別々の時期に行うと、足場代を2回払うことになります。

「今回は削れる工事がない」という結論になることもあります。その場合でも、診断結果と優先順位を記録に残しておけば、総会で「なぜこの範囲なのか」を説明する根拠になり、増額や借入れの議案への理解にもつながります。

修繕積立金ガイドラインが集めた366事例の平均でも、仮設工事は工事費全体の9.0%を占めます。足場を共用する工事を分割すれば、この部分が重複しかねません。削るかどうかを判断する前に、設計者や施工者に「分割した場合の総額」も試算してもらうと比較しやすくなります。工事の周期や時期の考え方は大規模修繕はいつ?修繕周期の考え方も参考になります。

不足を繰り返さないために、毎年やること

今回の不足をしのいでも、同じ原因が残っていれば次の工事でまた足りなくなります。仕組みとして続けたいのは次のような習慣です。

  • 毎年の通常総会で、修繕積立金の実際の残高と計画上の予定残高を並べて報告する
  • 長期修繕計画を5年程度ごとに、調査・診断を行ったうえで見直す
  • 駐車場使用料などの繰入れを、実際の収入に合わせて毎年確認する
  • 滞納は早い段階で督促し、長期化したものは法的手続きも視野に入れる
  • 計画外の修繕で積立金を取り崩したら、その額を計画の収支表に反映する

計画外の修繕が続く場合は、その部位の劣化が計画の想定より早く進んでいるサインかもしれません。個別の補修で済ませ続けるより、調査・診断を行って計画上の周期そのものを見直したほうが、長い目で見て支出を抑えられることがあります。

令和5年度の同調査で「不明」と答えた組合が23.5%あったことを思い出してください。計画と実績の比較を毎年の定例作業にするだけで、不足の早期発見につながります。値上げの進め方は修繕積立金の値上げは妥当?提案を確かめる手順、工事費の点検は修繕費の見直しと修繕積立金の関係で詳しく扱っています。

不足への対応を考える前のチェックリスト

計画と実績の差今年度末の実際の残高と、計画上の予定残高
原因の内訳値上げ見送り・工事費上昇・計画外工事・繰入れ・滞納の金額
最初の不足時期残高が最初にマイナスになる年度と金額
次の大きな支出大規模修繕以外に、エレベーターや配管の工事が近くにないか
借入れの条件返済額が積立金の80%以内か、返済期間中の他の工事資金
一時金の負担1戸当たりの額と、支払いが難しい世帯への配慮
工事の優先順位診断結果に基づく安全・漏水関連の工事の扱い

対応策を総会に諮るときは、1案だけでなく、複数案の時期別の負担と残高推移を並べて示すと、住民が比較して判断しやすくなります。

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よくある質問

借入れですぐ解決できますか?

返済も将来の負担です。借入れは工事の時期に資金を間に合わせる手段で、不足そのものをなくすわけではありません。利息・保証料・返済期間に加え、返済中に予定されている他の工事の資金まで含めて、長期修繕計画の収支表で確認してから判断してください。

一時金は、払えない人がいたらどうなりますか?

総会で有効に決議された一時金は、全区分所有者に支払い義務があり、未払いは滞納として扱われます。現実には高額の一時金は払えない世帯が出やすく、分割払いの設定や、借入れとの組み合わせで1回の負担を抑える工夫が検討されます。方針は規約と専門家の意見を踏まえて決めてください。

不足していても、大規模修繕を延期すればよいのでは?

診断の結果、劣化が軽く延期できる部位もあります。ただし外壁の剥落や漏水など安全や建物の傷みに関わる部分を先送りすると、補修範囲が広がって費用が増えるおそれがあります。延期する場合も、その後の収支と劣化の見通しを計画に反映させておく必要があります。

不足しているかどうか、どうやって分かりますか?

長期修繕計画の収支表にある今年度末の予定残高と、決算書の実際の修繕積立金残高を比べます。差があれば計画に対する不足です。あわせて、計画の作成日と工事費の単価の時点を確認し、計画自体が古くなっていないかも見ると、両方の不足を確かめられます。

不足の責任は、管理会社にあるのですか?

長期修繕計画と修繕積立金の額を決めるのは総会で、最終的な責任は管理組合にあります。管理会社は計画の作成支援や会計報告を担うことが多いので、計画と実績の差をどう報告してきたか、見直しの提案があったかは確認しておきたい点です。契約上の責任の有無は、管理委託契約の内容と専門家の意見を踏まえて判断します。

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出典・参考資料

写真:Photo by Napendra Singh on Unsplash、Photo by Wilhelm Gunkel on Unsplash

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