住民目線で知る、大規模修繕が必要な理由
まだきれいに見えるのに、なぜ足場を組んで何千万円もの工事をするのか。屋上や外壁で見えないうちに進む劣化、12〜15年という周期の根拠、費用の目安、住民として関われる場面まで、大規模修繕の「なぜ」を順に解きます。
この記事の要点
- 01屋上防水や外壁は、住民から見えにくい場所で傷む
- 02足場が要るのは、外壁全面に手が届かないと直せないから
- 03大規模修繕の周期は一般的に12〜15年程度
- 04工事の根拠と業者の選び方は、住民も確かめてよい
この記事の目次

「まだきれいなのに」と感じたときに知っておきたいこと
「うちのマンション、まだ十分きれいなのに、なぜ何千万円もかけて工事をするの?」。大規模修繕の説明会で、よく出る声です。部屋の中が快適だと、建物全体も元気だと感じるのは自然なことでしょう。
ただ、住まいは専有部分(自分の部屋)だけで成り立っているわけではありません。雨を防ぐ屋上の防水層、外壁の塗膜やタイル、窓まわりのすき間を埋めるシーリング(ゴム状の目地材)、各戸に水を届ける配管、毎日乗るエレベーター。これらはすべて共用部分で、区分所有者全員で持ち、全員で直していくものです。

ベランダも窓も、実は「共用部分」
意外に知られていないのが、自分の部屋に付いている部分の扱いです。標準管理規約の第7条では、壁や床は躯体(コンクリートの構造部分)を除く内側が専有部分、玄関扉は錠と内側の塗装部分だけが専有部分で、窓枠と窓ガラスは専有部分に含まれないとされています。ベランダ(バルコニー)も共用部分で、その住戸の人が専用に使える権利を認められている、という位置づけです。大規模修繕でベランダの防水や玄関扉の外側の塗装まで工事の対象になるのは、このためです。
劣化は、住んでいる人から見えにくい場所で進む
屋上は住民が立ち入らないことが多く、外壁の高い位置は地上から細かく見えません。防水層やシーリングが傷んでも、すぐに室内へ雨が入るとは限らず、気づいたときには下地まで水が回っていることもあります。大規模修繕は、目に見える汚れを落とす工事というより、こうした「見えない防御」を定期的に入れ替える工事だと考えると分かりやすくなります。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」によると、大規模な計画修繕工事で実施した工事項目は、外壁塗装工事が87.1%、屋上防水工事が75.0%、床防水工事が61.6%でした。どのマンションでも、まず建物を雨と日射から守る部分に手を入れているのが分かります。
建物の高齢化は全国的な流れでもあります。法務省・国交省の改正法の概要資料によると、築40年以上のマンションは約137万戸で全体の約2割にあたり、今後10年で2倍、20年で3.4倍に増える見込みです。修繕を計画どおりに続けられるかどうかは、どのマンションにとっても長く住み続けるための前提になっています。
建物を足場で覆うのは、外壁のすべてに手を届かせるため
工事が始まると、建物全体が足場とメッシュシートで覆われます。ベランダに出られない、窓を開けにくい、洗濯物を外に干せない。住民にとっていちばん実感しやすい変化でしょう。なぜ、そこまでする必要があるのでしょうか。
理由は単純で、外壁のすべての面に職人の手が届かないと、点検も補修もできないからです。タイルを1枚ずつたたいて浮きを確かめる打診、ひび割れの補修、古いシーリングの撤去と打ち替え、塗装。どれも壁から数十センチの距離で行う作業です。
いずれも国交省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の数字です。足場などの仮設工事が工事費のおよそ2割を占めることが分かります。足場は一度組むと費用がかさむため、外壁、防水、鉄部塗装など足場が必要な工事をまとめて行うのが一般的です。これが「大規模」と呼ばれるゆえんでもあります。
住民から見た工事の流れ
工事は一般に、着工前の説明会から始まり、足場の組立て、外壁の下地補修、シーリングの打替え、塗装、屋上やベランダの防水、完了前の検査、足場の解体という順で進みます。ベランダに立ち入る工程や、窓を開けられない工程は、掲示や配布物で事前に知らされるのが通常です。自分の住戸にかかわる日程は、配布された工程表に印をつけておくと慌てずに済みます。
足場がある期間は、防犯、ベランダの私物の片づけ、塗装のにおいなど、生活上の配慮が必要になります。工事中の過ごし方や、住民への伝え方は大規模修繕中の生活の記事で詳しく扱っています。
「12〜15年ごと」という周期はどこから来るのか
大規模修繕の間隔として「12〜15年」という数字をよく耳にします。これは思いつきの数字ではなく、国交省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)が、外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期について「一般的に12〜15年程度」としていることが背景にあります。
実態もこの範囲に収まっています。先の令和3年度実態調査では、平均修繕周期は「13年」が最も多く、全体の約7割が12〜15年でした。回数別に見ると、1回目は平均15.6年、2回目は14.0年、3回目は12.9年と、回を重ねるほど間隔が短くなる傾向も示されています。
2回目、3回目は中身が変わる
図のとおり、部位によって直しどきは違います。1回目は外壁と防水が中心でも、築25〜30年ごろの2回目になると、給排水管の更生やエレベーターの取替えといった設備の工事が重なってきます。ガイドラインが長期修繕計画の期間を「30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」としているのは、この重い時期を計画の中に入れておくためです。工事時期の考え方は修繕周期の記事も参照してください。
計画は「5年程度ごと」に見直すもの
長期修繕計画に書かれた工事の時期や金額は、あくまで作成時点の推定です。ガイドラインは、5年程度ごとに調査・診断を行い、その結果をもとに計画を見直すことを求めています。令和5年度のマンション総合調査では、「5年毎を目安に定期的に見直している」管理組合は63.2%でした。自分のマンションの計画がいつ見直されたかは、総会の議事録や計画書の表紙で確認できます。
工事を先送りすると、何が起きるか
「今は少し我慢して、工事は先に延ばしたい」。積立金の値上げや一時金を避けたい気持ちから、こうした意見が出ることもあります。先送りそのものが常に悪いわけではありません。調査・診断の結果、まだ持つと判断できる部位なら、時期をずらすのは合理的な選択です。
問題になるのは、状態を確かめないまま延ばす場合です。防水が切れれば漏水、外壁のタイルや塗膜が傷めば剥落の危険が出てきます。令和5年度のマンション総合調査では、過去1年間に「建物の不具合に係る」トラブルがあった管理組合は31.7%で、具体的には水漏れが20.1%、雨漏りが10.7%でした。
買う人も、修繕の状況を見ている
同じ調査では、マンションを選ぶときに入居後の共用部分の維持管理を考慮した区分所有者は43.5%で、考慮した事項としては「管理費及び修繕積立金の額が十分であること」が42.5%挙がっていました。将来部屋を売ったり貸したりする可能性がある人にとっても、計画どおりに修繕が行われているかは無関係ではありません。
延ばすなら、根拠を残す
先送りを選ぶなら、劣化診断の結果、どの部位をいつまで延ばすのか、その間にどんな点検をするのかを総会資料に残しておくことが大切になります。住民としては「延ばした場合に、次にいつ、何を確認するのか」を聞いておくと安心です。
費用は1戸あたりいくら? 誰がどう払う?
工事費は、原則として修繕積立金から支払われます。先の実態調査では、戸あたりの工事金額は「100〜125万円/戸」が最も多く、次いで「75〜100万円/戸」「125〜150万円/戸」でした。もちろん建物の規模や仕様、工事範囲で大きく変わりますが、1戸あたり100万円前後というのが一つの感覚値になります。
2026年9月28日には、公正取引委員会が、関東地区のマンション管理組合が設計コンサルタントに委託して発注する大規模修繕工事をめぐり、施工業者らに排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。同日、国交省も関係団体を通じて管理組合向けに相談窓口の周知などを行っています。発注の手続きが適正かどうかは、理事会任せにせず住民も関心を持っておきたい点です。見積書の見方は修繕工事の見積書の見方で、第三者の目で見積もりを確認する方法は見積もり無料チェックの流れで紹介しています。
理事でなくても、住民が関われる4つの場面
大規模修繕は理事会や修繕委員会が中心になって進めますが、最終的に工事の実施と予算を決めるのは総会、つまり区分所有者全員です。理事でなくても、関われる場面はいくつもあります。
- 劣化診断のアンケートに答える「ベランダの天井にしみがある」「サッシから風が入る」といった住戸ごとの情報は、診断の精度を上げる材料になります。
- 説明会に出て、根拠を聞く診断報告書のどの結果が、どの工事項目につながっているのかを確かめます。
- 総会の議案を読み、議決権を使う出席できなくても、議決権行使書で賛否を示せます。詳しくは総会・議決権の記事へ。
- 工事中の協力と、不具合の報告ベランダの片づけや住戸内への立入りへの協力、工事後に見つけた不具合の連絡も、仕上がりを守ることにつながります。
説明会で聞いておきたいこと
- 「今回の工事項目は、診断報告書のどの結果にもとづいていますか」
- 「長期修繕計画で予定していた工事と比べて、追加・削除した項目はありますか」
- 「施工会社は何社から、どういう基準で選びましたか」
- 「工事の前後で、修繕積立金の残高と次の値上げ予定はどうなりますか」
日頃見つけた不具合も、大事な情報です。ひび割れや水のしみを見つけたら、場所と日時、できれば写真を添えて管理会社か理事会の窓口に伝えてください。危険を感じる場合は近づかず、すぐに連絡することを優先しましょう。
大規模修繕の説明を受けたら確認したいこと
| 工事の根拠 | 劣化診断の報告書があり、工事項目と結果が対応しているか |
|---|---|
| 時期 | 前回の工事からの年数と、長期修繕計画で予定していた時期 |
| 工事項目 | 外壁・防水のほか、設備の工事が含まれるか。追加・削除の理由 |
| 費用 | 総額と1戸あたりの金額。項目ごとの内訳が示されているか |
| 資金 | 修繕積立金の残高で足りるか。一時金や借入れの有無 |
| 業者選定 | 何社から、どんな基準・手順で選んだか |
| 生活への影響 | 工期、ベランダの使用制限、立入りの予定、問い合わせ先 |
| 工事後 | 保証内容と、次の長期修繕計画の見直し予定 |
すべてに理事会がすぐ答えられるとは限りません。説明会で答えが出なかった項目は、総会前に書面で回答をもらえるよう依頼しておくとよいでしょう。回答は議事録や配布資料として残るので、工事後に仕上がりや費用を振り返るときの手がかりにもなります。
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よくある質問
自分の部屋に不具合がなければ、工事はいらないのでは?
屋上防水や外壁の劣化は、室内に症状が出る前に進むことが多く、部屋の状態だけでは判断できません。工事が必要かどうかは、建物全体の劣化診断の結果で確かめます。説明会で診断報告書の内容を聞き、どの結果がどの工事につながっているかを確認してください。
12〜15年より前に工事をするのは早すぎませんか?
12〜15年は国交省ガイドラインが示す一般的な目安で、実際の時期は仕様や立地、劣化の進み方で変わります。早めるにしても遅らせるにしても、診断結果という根拠があるかどうかが大切です。前回工事からの年数と診断結果をあわせて説明してもらいましょう。
工事中、ベランダはまったく使えなくなりますか?
工程によって使えない期間があり、洗濯物を外に干せない、私物を移動する、といった制限がかかるのが一般的です。期間や範囲はマンションと工事計画によって違うので、工事前の説明会や掲示で確認してください。在宅勤務や介護など事情がある場合は、早めに相談窓口に伝えておくと調整してもらいやすくなります。
大規模修繕が終わったら、修繕積立金は下がりますか?
下がるとは限りません。1回目の工事が終わっても、2回目以降は給排水管やエレベーターなど設備の工事が重なり、必要額が増えるのが一般的な流れです。工事後に長期修繕計画を見直し、次の30年でいくら必要かを改めて示してもらうと、積立金の見通しが分かります。
談合のニュースを見て不安です。住民に何ができますか?
業者選定の手順と見積もりの比較方法を、理事会に説明してもらうことができます。何社に声をかけ、どういう基準で選んだのか、設計コンサルタントとの関係はどうなっているのかを確認するのは、住民として正当な関心です。国交省も管理組合向けに相談窓口を周知しています。
出典・参考資料
- 国土交通省|長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定) ↗
- 国土交通省|令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査(概要) ↗
- 国土交通省|令和5年度マンション総合調査 ↗
- 公正取引委員会|関東地区のマンション大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令等(令和8年9月28日) ↗
- 国土交通省|マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について(令和8年9月28日) ↗
- 法務省|区分所有法等の一部を改正する法律について ↗
写真:Photo by Dorothy Kuromi on Unsplash、Photo by Ryan Rivers on Unsplash
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