必要な品質を守りながら修繕費を見直す
修繕費の見直しは、総額から一律に削ることではありません。足場や下地補修、工事監理のように守るべき費用を先に決め、根拠を確かめる費用と、組合が選ぶ選択肢に仕分けてから進めます。想定例とともに手順を整理します。
この記事の要点
- 01一律の値引きは、何が削られたかを確かめられない
- 02足場・下地補修・工事監理は削る対象にしない
- 03数量・一式・重複・工事項目の根拠を確かめる
- 04仕様・範囲・時期は選択肢として並べ、組合が選ぶ
この記事の目次

「全部で1割下げて」が、いちばん危ない
見積総額が予算を上回ったとき、理事会で最初に出やすいのが「全体で1割下げてもらえないか」という案です。わかりやすい一方で、何を削るかを施工会社に任せることになり、管理組合は結果を確かめられません。
工事費は、材料費と職人の手間、足場や安全対策、現場の管理でできています。金額だけを下げれば、どこかの手間や管理が薄くなる可能性があります。見直しは総額からではなく、項目ごとに「守る」「根拠を確かめる」「選択肢を比べる」に仕分けるところから始めます。
管理会社や設計者には、こう頼む
「1割下げてください」ではなく、「予算との差が○万円あります。数量の根拠の確認、重複の整理、仕様の選択肢の3つの観点で、見直し案を項目ごとに示してください。足場・下地補修・工事監理は減額の対象にしないでください」と依頼します。見直しの観点と、守る範囲を最初に伝えておくことで、出てくる案を比べやすくなります。
この記事では工事費そのものの見直しを扱います。見直した結果を修繕積立金の額や資金計画にどう反映するかは、修繕費の見直しと修繕積立金の関係の記事で整理しています。
何にどれだけ費用がかかるのかという全体の構成は、大規模修繕工事の費用相場と内訳の解説の費用相場の項目で確認できます。
削る対象にしない費用
まず、見直しの対象から外しておく費用を決めます。削ると工事の品質や安全、あとからの検証に直接響くものです。
足場と安全対策
国土交通省の令和3年度調査では、足場などの仮設工事が総工事金額の22.8%を占めていました。大きな費目なので目に付きますが、足場は職人が外壁や防水を丁寧に施工するための作業床であり、住民と通行人を守る設備でもあります。種類や設置期間の前提を確かめることはあっても、安全性を落とす方向の削減は避けます。
劣化に応じた下地補修
外壁のひび割れや浮きの補修は、塗装や防水の耐久性を左右します。見込み数量を減らせば見積総額は下がりますが、工事中に実数で精算されれば結局は増えますし、補修が不足すれば次の工事までの劣化が早まるおそれがあります。
工事監理と記録
設計・監理方式で工事を進める場合、設計コンサルタントの業務量の内訳は、令和3年度調査で工事監理が47.9%と最も大きな割合でした。工事中の検査や記録は、見えなくなる部分の品質を確かめる唯一の手段です。国土交通省は平成30年の調査公表時に、設計コンサルタントの業務量、とくに工事監理の業務量が低すぎないかを事前に検討すべきポイントに挙げています。
保険と保証
大規模修繕瑕疵保険の保険料は、令和3年度調査で総工事金額の0.8%でした。金額は小さい一方、工事後に欠陥が見つかった場合の備えになります。加入の有無を見直す場合は、施工会社の保証内容とあわせて判断します。
見直しの余地が出やすいのは「根拠」の部分
守る費用を決めたら、次は根拠を確かめる費用です。ここは説明がつけば残し、説明がつかなければ見直しを求める領域です。

| 確かめる対象 | 起きやすいこと | 確認の仕方 |
|---|---|---|
| 数量 | 図面からの拾い方が粗く、面積や長さが多めになっている | 算出表や図面へのマーキングを出してもらい、設計者の数量と比べる |
| 一式 | 中身が不明確で、他の項目と重なっている | 内訳を人数×日数、数量×単価の形で出してもらう |
| 重複 | 同じ部位の作業が別の科目にも入っている | 図面に項目番号を書き込み、同じ場所が二重に出てこないか見る |
| 工事項目 | 劣化診断で問題がなかった部位まで工事対象になっている | 診断報告書と工事項目を1対1で対応させる |
国土交通省は平成30年の実態調査の公表にあたり、工事を発注する前に検討したほうがよい点として「工事内訳に過剰な工事項目・仕様の設定等がないか」を挙げていました。診断の結果と工事項目が対応しているかを確かめるのは、その具体的なやり方です。
根拠の確認は、設計コンサルタントがいれば設計者の業務として依頼できます。責任施工方式で設計者がいない場合は、施工会社に算出表を求め、必要に応じて外部の専門家に照合してもらいます。どちらの場合も、確認した結果を「どの項目を、何と照らして、いくら変わったか」の形で残します。見積書の読み方は見積書の見方の記事、一式の確認は「一式」表記の記事で詳しく紹介しています。
仕様・範囲・時期は、組合が選ぶ「選択肢」として並べる
3つ目の箱は、管理組合が方針として選ぶ部分です。どれが正解というものではなく、費用と耐久性、次回工事までの年数、住民の負担を天秤にかけて決めます。施工会社や設計者には、選択肢ごとの金額と影響を並べて示してもらいます。
| 選択肢の例 | 費用への影響 | 確かめること |
|---|---|---|
| 塗料・防水材のグレード | 高いグレードほど初期費用は増える | 期待できる耐用年数、次回工事の時期との関係 |
| 防水の工法(撤去か、既存を活かすか) | 既存層を活かす工法は撤去費を抑えられる場合がある | 既存防水層の劣化状態が工法に適しているか |
| 工事範囲の優先順位 | 緊急性の低い工事を外せば今回の費用は下がる | 外した工事を次回まで待てるか、足場が再び必要にならないか |
| 実施時期 | 工事を先に延ばすと当面の支出は減る | 劣化の進行で補修量が増えないか、長期修繕計画との整合 |
選択肢の比較では、初期費用だけでなく、次回工事までの年数で割った「1年あたりの費用」の考え方も役に立ちます。初期費用が高くても耐用年数の目安が長い仕様なら、長い目で見た負担が小さくなることがあります。ただし耐用年数はあくまで目安で、立地や施工の質で変わるため、設計者の見解を書面でもらっておきます。
足場が必要な工事を分けて別の年に行うと、足場の費用が2回かかります。範囲を削るときは、「今回やらない工事は、次にいつ、どの足場で行うのか」まで決めておかないと、長い目で見て高くつくことがあります。
選択肢は、少なくとも「現行案」と「見直し案」の2つを並べ、それぞれの金額・耐用年数の目安・次回工事の時期を1枚の表にまとめると、理事会で議論しやすくなります。
想定例:1億1,000万円の見積もりを見直した結果
| 見直しの内容 | 箱 | 増減 |
|---|---|---|
| 外壁の数量を設計者の数量と照合 | 根拠を確かめる | −380万円 |
| 庇まわりの重複を整理 | 根拠を確かめる | −120万円 |
| 屋上防水の工法を変更 | 選択肢を比べる | −600万円 |
| 下地補修の見込み数量を実態に合わせる | 守る | +200万円 |
| 差し引き | −900万円(1億1,000万円→1億100万円) |
見直しにかかった期間も見ておきたい点です。この想定例では、仕分けと質問に1か月、各社の見直し案の提出と比較に1か月ほどかかりました。総会の日程から逆算し、見直しの時間を工程表に組み込んでおかないと、時間切れで元の見積もりのまま決議することになりかねません。
この例で大切なのは、見直しの中に増額が含まれていることです。守るべき費用が不足していれば、見直しで増やすこともあります。「減った金額」だけでなく、「何を確かめて、何を選んだか」を記録に残すことが、見直しの本当の成果です。
見直しで起きやすい失敗
見直しの進め方によっては、金額は下がっても、比較の公正さや工事の品質に傷がつくことがあります。よくある失敗を挙げます。
- ほかの会社の金額を伝えて値下げを迫る。比較の公正さが崩れ、次回以降の見積もりで各社が本気の金額を出しにくくなります。値下げを求めるなら、全社に同じ条件で再見積もりを依頼します。
- 工期の短縮で費用を下げる。工期を縮めれば仮設費などは減りますが、塗装の乾燥時間や天候による中断を見込めなくなるおそれがあります。
- 仕様の変更を口頭で決める。見直し後の仕様が見積書や契約書に反映されていないと、工事中に「言った・言わない」になります。
- 見直しの理由を住民に説明しない。金額が下がったことだけが伝わると、「最初の見積もりは何だったのか」という不信につながります。
もう一つ見落としやすいのが、見直しの途中で比較の条件が変わってしまうことです。1社とだけ仕様の変更を相談し、その会社の見直し後の金額と他社の当初の金額を比べれば、公平な比較にはなりません。仕様を変えるなら、全社に同じ変更後の条件で見積もりを出し直してもらいます。
また、見直しの議論が長引くと、見積もりの有効期限が切れたり、予定していた工事の時期が梅雨や冬にずれ込んだりすることがあります。塗装や防水は天候の影響を受けやすいため、見直しの期限をあらかじめ決めておくことも失敗を防ぐ手立てです。
見直し後の見積書は必ず書面で出し直してもらい、見直し前との差を一覧にして保管します。工法や仕様を変えた場合は、変更の理由と、耐久性や保証への影響についての説明も書面で受け取っておきます。
見直しの結果を、次の工事と長期修繕計画につなぐ
今回の工事で範囲を絞ったり、耐用年数の短い仕様を選んだりした場合、その影響は次の工事に回ります。見直しの結果は、長期修繕計画の工事項目と金額、実施時期に反映させて初めて完結します。
- 先送りした工事を書き出す今回外した工事と、実施を予定する時期を一覧にします。
- 仕様の変更による周期の変化を確認する選んだ仕様の耐用年数の目安から、次回の工事時期がずれないかを設計者に確認します。
- 長期修繕計画を見直す工事完了後に、実際の工事内容と金額で計画を更新します。見直しの考え方は長期修繕計画の記事をご覧ください。
総会では、「今回の工事費は見直しにより900万円減額。うち600万円は屋上防水の工法変更によるもので、次回の防水工事の時期は長期修繕計画で○年後と見込んでいる」のように、減額の内訳と将来への影響をセットで説明すると、住民の納得を得やすくなります。
見直しの前に見積書全体を第三者の目で確認したい場合は、当サイトの見積もり無料チェックもご利用いただけます。
見直しを始める前に、ここを確認
| 守る費用 | 足場・安全対策、下地補修、工事監理を対象外にしたか |
|---|---|
| 数量 | 算出根拠を確認し、設計者の数量と照合したか |
| 一式・重複 | 内訳を確認し、二重計上がないか見たか |
| 工事項目 | 劣化診断の結果と工事項目が対応しているか |
| 選択肢 | 現行案と見直し案の金額・耐用年数・次回時期を並べたか |
| 範囲の削減 | 外した工事の実施時期と足場の扱いを決めたか |
| 書面化 | 見直し後の見積書と変更理由を書面で受け取ったか |
| 長期修繕計画 | 見直しの結果を計画に反映する段取りを決めたか |
見直しの記録は、次の大規模修繕のときに最初に読み返す資料になります。何を守り、何を選んだかを残しておきましょう。
確認メモを開く・印刷する無料修繕工事の費用が気になる方へ
工事項目・数量・単価・諸経費を、無料で確認します。必要な施工と監理は守りながら、理事会で質問すべき点を整理します。
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よくある質問
安い見積もりに替えればよいですか?
同じ工事条件と品質確認の体制が確保されているかを先に確認してください。安さの理由が工事範囲の不足や見込み数量の少なさにあれば、工事中の増額や品質の低下につながります。金額だけで見積もりを替えることはおすすめしません。範囲・数量・単価・諸経費に分けて比べることが先です。
設計コンサルタントの費用を削れば、工事費に回せますか?
おすすめしません。工事監理は、工事中に見えなくなる部分の品質を確かめる手段です。国土交通省も、設計コンサルタントの業務量、とくに工事監理の業務量が低すぎないかを発注前の検討ポイントに挙げています。費用が高いと感じたら、削るのではなく業務内容と業務量の説明を求めてください。
工事を2回に分ければ、1回あたりの負担は減りますか?
1回あたりの支出は減りますが、足場が必要な工事を分けると足場の費用が2回かかり、合計では高くなることがあります。分ける場合は、足場を使う工事をできるだけ同じ回にまとめ、分けた工事の時期を長期修繕計画に書き込んでください。設計者に分割した場合の総額の試算を依頼すると判断しやすくなります。
見直しを誰に頼めばよいか分かりません。
設計・監理方式なら、まず設計コンサルタントに見直し案の作成を依頼します。設計者がいない場合や、設計者の案に疑問がある場合は、自治体の専門家派遣制度や公的な相談窓口、マンション管理士・建築士などの外部専門家に相談する方法があります。国土交通省も発注時の外部専門家の活用を案内しています。
見直しで仕様を下げたら、保証はどうなりますか?
仕様によって保証の期間や条件が変わることがあります。見直し案を検討するときに、施工会社に仕様ごとの保証期間と条件を書面で示してもらってください。保証期間が短くなる場合は、次回工事までの点検の計画もあわせて考えておくと安心です。
出典・参考資料
- 国土交通省|令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査(報告書) ↗
- 国土交通省|マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施(平成30年5月11日) ↗
- 国土交通省|マンション改修マニュアル(令和8年3月改訂) ↗
- 国土交通省|マンション管理・各種ガイドライン ↗
写真:Photo by dostonxd on Unsplash、Photo by NORTHFOLK on Unsplash
本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。