管理会社に任せること、管理組合で決めること

管理会社に業務を委託しても、決めるのは管理組合です。標準管理規約をもとに、案件ごとに誰が決めるか、お金と書類をどう持つか、管理会社が管理者になる方式の注意点を整理します。

まず押さえたいこと:委託するのは執行、決めるのは管理組合

この記事の要点

  1. 01管理委託契約の締結や予算は、標準管理規約では総会で決める
  2. 02案件ごとに決める場を一覧にすると、迷いと遅れが減る
  3. 03通帳と印鑑を同じ主体が持たないのが分別管理の基本
  4. 04管理会社が管理者になる方式は、2026年4月から規制が強化
この記事の目次
受付カウンターとエレベーターのあるマンションのエントランスホール

管理会社は「決める人」ではなく「決めるための材料を整える人」

管理会社に事務や点検を任せていても、マンションの管理の主体は区分所有者で構成される管理組合です。マンション標準管理規約(令和7年10月改正)は第33条で、管理組合の業務の全部または一部をマンション管理業者などの第三者に委託できると定めていますが、委託できるのは「業務の執行」であって、何をするかを決める権限まで移るわけではありません。

標準管理規約では、予算・決算、管理費等の額、長期修繕計画の作成や変更、そして管理委託契約の締結そのものが総会の決議事項です(第48条)。理事会は総会に出す議案をつくり、予算の範囲内で業務を執行します(第54条)。理事長は管理組合を代表し、区分所有法上の管理者でもあります(第38条)。管理会社は、この意思決定の流れに資料・選択肢・見積りを提供し、決まったことを実行して報告する立場です。

総会・理事会・管理会社の3層で、総会が予算や管理委託契約を決め、理事会が議案をつくり予算内で執行し、管理会社が資料を準備して実行・報告する役割分担を示した図
総会・理事会・管理会社の役割分担(国土交通省「マンション標準管理規約」令和7年改正・単棟型をもとに作成)

自分たちの管理規約が標準管理規約と同じとは限りません。令和7年10月の標準管理規約改正は、2026年4月1日施行の改正区分所有法に合わせて、総会の開催手続きや決議要件を見直しています。国土交通省は各マンションに管理規約の見直しを呼びかけており、自分たちの規約がどの時点の標準管理規約をもとにしているかを確認することが、役割分担を考える出発点になります。

案件ごとに「誰が決めるか」を一覧にする

理事会で迷いやすいのは、「これは理事会で決めていいのか」「管理会社に任せていいのか」という線引きです。標準管理規約をもとにした場合の目安を表にしました。実際の判断は、必ず自分たちの管理規約と承認済みの予算で確認してください。

案件決める場(標準管理規約の場合)管理会社の役割
年間の収支予算・事業計画総会(第48条、第58条)予算案の素案づくり、前年度実績の整理
管理費・修繕積立金の額総会(第48条)試算資料の作成、改定案の説明補助
管理委託契約の締結・更新総会(第48条)重要事項説明、業務内容と費用の提示
長期修繕計画の作成・変更総会(第48条)。案は理事会(第54条)助言、別契約での計画案作成
予算内の小修繕・備品購入理事会・理事長(予算と細則の範囲内)見積りの受理、業者との取次ぎ、完了確認
専有部分のリフォーム申請理事会の決議で理事長が承認(第17条)申請書の受付、書類の確認補助
災害時の応急的な修繕理事会(第54条第1項第十五号)被害状況の確認、応急対応の手配

表を見ると、管理会社の欄には「決める」が一つもないことがわかります。管理会社が「理事長さんの了承をもらったので発注しました」と言ったとき、その案件が本当に理事長の権限の範囲かどうかを確かめるのは管理組合の側です。理事会の決定事項の全体像はマンション理事会とは?役割・仕事と決めることで詳しく扱っています。

注意「前の理事会でも同じようにしていた」は根拠になりません。予算の承認がない支出や、総会の決議が必要な案件を理事会限りで進めると、後から区分所有者に説明できなくなります。迷ったら、規約の該当条文と予算の科目を議事録に書き残しておきます。

管理会社への「指示」は誰が出すか

標準管理委託契約書第8条は、管理組合から管理会社への指示は、法令に基づく場合を除き、理事長などの管理者等か、管理組合が指定した役員が、管理会社の指定した担当者に対して行うと定めています。個々の理事や住民が管理員に直接依頼を重ねると、優先順位がぶつかったり、費用の承認が抜けたりしがちです。住民からの要望はいったん理事会や窓口役員に集め、そこから管理会社に伝える流れにしておくと、誰が何を頼んだかが記録に残ります。

提案を「説明を受ける側」として聞くための質問

管理会社からの提案は、理事会の判断材料として貴重です。一方で、専門用語が多い説明を受けると、質問しにくいまま「お任せします」で終わってしまいがちです。聞くべき項目をあらかじめ決めておくと、理事が交代しても同じ水準で確認できます。

  1. なぜ今なのか点検結果や劣化の写真など、提案の根拠と、判断の期限を聞きます。
  2. ほかの選択肢は何か先送り、部分補修、仕様の変更など、少なくとも2案を比べられる形で出してもらいます。
  3. 費用はいくらで、どの会計から出すか管理費会計か修繕積立金会計か、予算内か予算外かを確認します。
  4. やらない場合に何が起きるか安全・法令・住民生活への影響を、できるだけ具体的に説明してもらいます。
  5. 誰が発注し、誰が受注するか管理会社や関連会社が受注する場合は、その旨と費用の内訳、相見積もりの有無を確認します。
ポイント

理事会ではこう切り出すと角が立ちません。「住民に説明するときに聞かれそうなので、ほかの案と比べた資料をいただけますか。やらない場合の影響と、いつまでに決めればよいかも書面でお願いします」。住民への説明責任を理由にすると、管理会社も資料を整えやすくなります。

令和7年12月改訂の標準管理委託契約書コメントでは、管理会社自身や関連会社が工事を受注する場合、施工会社の選定だけを行う場合にも、工事費用の内訳や積算根拠を説明することが望ましいとされました。こうした質問は、管理会社を疑うためではなく、標準的な手順に沿って確認するためのものです。

通帳・印鑑と重要書類は、管理組合の手元で把握する

役割分担で特に線を引いておきたいのが、お金と書類です。マンション管理適正化法は、管理業者が管理組合から預かる修繕積立金などを、自社の財産や他の管理組合の財産と分けて管理するよう求めています(第76条)。同法施行規則第87条では、修繕積立金などを管理する保管口座や収納・保管口座について、管理業者が管理組合の印鑑やキャッシュカードなどを保管することを原則として禁じています。

つまり、「通帳は管理会社、印鑑は理事長(または監事)」のように、同じ主体が両方を持たない形が基本です。例外は、管理者がまだ選任されていない短い期間や、管理業者が管理者を務める場合に厳しい要件をすべて満たしたときに限られます。

このチェック役を担うのが監事です。標準管理規約第41条は、監事が管理組合の業務の執行と財産の状況を監査して総会に報告すること、いつでも理事などに業務の報告を求め、業務と財産の状況を調査できることを定めています。管理会社がつくった決算書をそのまま承認するのではなく、通帳や残高証明書の原本と照らし合わせることが、監事の大切な仕事です。

書類はどこにあるか

令和5年度マンション総合調査では、修繕履歴を保管しているのは「管理委託業者」が48.6%、「理事長」が23.4%でした。設計図書は理事長34.7%、管理委託業者31.7%、長期修繕計画は管理委託業者34.3%、理事長31.6%です。管理会社が保管すること自体は珍しくありませんが、標準管理規約では長期修繕計画書・設計図書・修繕履歴の保管と閲覧は理事長の役割とされています(第64条)。

  • 保管口座の名義が管理組合名(または理事長名)になっている
  • 口座の印鑑を誰が持っているかを、理事全員が知っている
  • 監事が年に一度は残高証明書と帳簿を突き合わせている
  • 設計図書・修繕履歴・長期修繕計画の保管場所の一覧がある
  • 管理会社が保管している書類の目録を受け取っている
現場の前で後ろ手に立つ作業員
点検や工事の実務は管理会社や協力会社が担っても、その記録は管理組合の財産として残す

管理会社が管理者になる方式では、確認の仕組みがより重要になる

役員のなり手不足を背景に、理事会を置かず、管理会社が区分所有法上の管理者に就く「管理業者管理者方式」を採るマンションも出てきました。令和5年度マンション総合調査では、区分所有者以外の第三者が管理者になっているマンションは3.7%、外部役員の選任を検討している、または将来必要なら検討したいとする組合は34.6%でした。検討理由は「区分所有者の高齢化」42.7%、「役員のなり手不足」42.3%が上位です。

この方式では、管理会社が発注者(管理者)と受注者(管理事務の受託者)を兼ねるため、利益相反が起きる可能性があります。2026年4月1日に施行された改正マンション管理適正化法と施行規則は、管理者事務の委託契約(管理者受託契約)にも重要事項説明と契約成立時の書面交付を義務づけ、管理者である管理業者が自社やグループ会社と取引する場合には、事前に説明会を開いて重要な事実を説明することを求めています。

国のガイドラインが示す主な目安

国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」(令和6年6月策定、令和8年4月改訂)は、次のような体制を望ましいとしています。

  • 管理者事務と管理事務の契約書を分け、社内でも担当部門と担当者を分ける
  • 管理者の任期は原則1年とし、総会で選任する
  • 監事のうち少なくとも1名は外部専門家から選び、区分所有者からも監事を選ぶ
  • 議決権は管理者への委任状ではなく、出席または議決権行使書で行使する
  • 大規模修繕工事は、区分所有者と監事で構成する修繕委員会を中心に検討する

理事会がなくなると、区分所有者が管理の状況を知る機会は総会と報告に限られます。この方式を検討する場合は、導入前の説明会で上の項目がどう扱われるかを確認し、必要に応じてマンション管理士や弁護士など第三者の専門家に相談することをおすすめします。

決めた役割分担を、次の理事に引き継ぐ

役員の任期が1〜2年のマンションでは、せっかく整理した役割分担も、交代のたびにあいまいになりがちです。管理会社の担当者(フロント担当)も数年で異動することがあります。人が入れ替わっても続くように、役割分担は文書で残しておきます。

役割分担表に入れておきたいのは、日常の連絡窓口、緊急時の連絡順、費用の承認ルール、書類と印鑑の保管者、管理会社からの報告を受ける場の5点です。議事録への残し方は議案・議事録の基本が参考になります。管理会社との日々のやりとりの工夫は管理会社との付き合い方で扱っています。

役割分担で確認しておきたいこと

管理規約どの時点の標準管理規約をもとにしているか、改正の要否
総会の決議事項予算・管理費等の額・管理委託契約などが総会事項か
理事会の権限予算内で理事会・理事長が決められる範囲と金額
管理会社への指示誰が窓口となって管理会社に依頼するか
通帳と印鑑保管口座の名義と、印鑑等を誰が保管しているか
監事の監査残高証明書と帳簿の突き合わせをしているか
重要書類設計図書・修繕履歴・長期修繕計画の保管場所
引き継ぎ役割分担表が議事録や引き継ぎ資料に残っているか

一度に全部をそろえる必要はありません。まずは通帳と印鑑、次に決める場の一覧、と優先度の高いものから確認し、確認できなかった項目は次回の理事会の議題に回します。

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よくある質問

理事長だけで工事を決められますか?

金額や案件だけで一律には判断できません。標準管理規約では、予算内の経常的な支出や災害時の保存行為など理事長や理事会で対応できる場面もありますが、予算外の支出や長期修繕計画の変更は総会の決議が必要です。自分たちの管理規約・細則と、総会で承認された予算の科目を確認してください。

管理会社に通帳と印鑑を両方預けてもよいですか?

避けるべきです。マンション管理適正化法施行規則は、修繕積立金などを管理する保管口座等について、管理業者が管理組合の印鑑やカードなどを保管することを原則禁止しています。例外は管理者未選任の短期間や、管理業者管理者方式で厳しい要件と総会決議を満たす場合などに限られます。

管理会社の提案に反対してもよいのでしょうか?

もちろんです。提案は判断材料で、採否を決めるのは管理組合です。反対する場合も、理由と代わりの案、再検討の時期を議事録に残しておくと、後で状況が変わったときに経緯をたどれます。安全や法令に関わる指摘は、先送りする場合の影響を確認したうえで判断してください。

理事のなり手がいない場合、管理会社に管理者を任せるしかありませんか?

選択肢の一つですが、ほかにも役員の人数や任期の見直し、マンション管理士など外部専門家の役員選任などが考えられます。管理業者管理者方式を選ぶ場合は、国のガイドラインが示す監事の選び方や利益相反のルールを確認し、導入前の説明会で十分に質問してから総会で判断することをおすすめします。

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出典・参考資料

写真:Photo by Point3D Commercial Imaging Ltd. on Unsplash、Photo by Georgi Kalaydzhiev on Unsplash

本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。