業者比較で見るポイント

見積総額を並べるだけでは、どの会社が自分たちの工事に合うかは分かりません。評価項目と配点を先に決め、金額・体制・品質・住民対応を同じ物差しで比べ、未確認の点まで記録する評価表のつくり方を紹介します。

まず押さえたいこと:評価の物差しは見積もりを開ける前に決める

この記事の要点

  1. 01評価項目と配点は、見積書を開ける前に理事会で決める
  2. 02必須条件で絞り込み、残った会社を配点で比べる
  3. 03金額は総額より「差の理由」を項目ごとに確かめる
  4. 04説明の印象と、書面で約束された内容を分けて記録する
この記事の目次
タブレットのチェックリストにペンで印を付けている手元

評価表は、見積書を開ける前につくる

見積書を開けてから評価項目を決めると、どうしても「気に入った会社が上位になる物差し」を選びたくなります。本人にそのつもりがなくても、後から住民に説明するとき、そう受け取られるおそれがあります。評価項目と配点は、見積書を開ける前に理事会で決めて議事録に残しておきましょう。

第1段階で建設業許可・実績・瑕疵保険・要項どおりの提出・利害関係の申告の必須条件を確認し、通過した会社を第2段階で見積内容30点・施工体制25点・品質管理20点・居住者対応15点・保証10点の計100点で評価する想定例の図
評価の組み立て方の想定例。配点は組合の事情に合わせて決めます。

おすすめは、評価を2段階に分けることです。第1段階では、満たしていなければ候補から外れる「必須条件」を確認します。第2段階では、残った会社を配点で比べます。こうすると、許可や保険が足りない会社が、説明のうまさで上位に来るようなことを防げます。

金額は配点に組み込む方法と、別枠で並べる方法があります。どちらでも構いませんが、総会資料では点数と金額の両方を示し、「点数がこれだけ違って、金額はこれだけ違う」と読み手が判断できるようにしておくと親切です。

必須条件には「譲れないもの」だけを入れる

必須条件を増やしすぎると、候補がほとんど残らなくなります。入れるのは、欠けていたら工事を任せられないものに絞ります。例えば、該当する業種の建設業許可、同程度の戸数・階数での施工実績、大規模修繕工事瑕疵保険を利用できること、見積要項どおりの様式と範囲で提出されていること、候補会社や関係者との利害関係を申告していること、などです。

「創業30年以上」「従業員100人以上」のような条件は、根拠を説明できないなら避けたほうが無難です。小さくても実績のある会社を、理由なく外すことになりかねません。

配点は、自分たちの建物の事情を映す

配点に正解はありません。高齢の住民が多いなら住民対応の配点を上げる、タイル張りの外壁なら補修実績や検査方法を重く見る、といったように、建物と住民の事情を反映させます。なぜその配点にしたのかを一行で書いておくと、総会での説明にも使えます。

評価の前提になる発注方式や選定方法の全体像は、大規模修繕工事とは?費用相場・周期・進め方の全体像で整理しています。

金額は、総額より「差の理由」を見る

3社の見積総額が1億1,800万円、1億2,600万円、1億3,100万円だったとします。差は最大1,300万円。これだけで最安の会社に決めてよいかどうかは、差がどの項目から生まれているかで変わります。

差の原因確かめ方
数量の違い外壁補修やシーリングの数量が要項と違っていないか。足場を組んでから確定する数量の扱い
仕様の違い塗料や防水材のグレード、工法の読み替えがないか
範囲の違い要項にある工事が「別途」になっていないか
単価の違い同じ数量・仕様で単価が違う項目はどこか
諸経費の違い現場管理費・一般管理費・法定福利費の計上のしかた

国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、総工事金額の内訳は建築系工事60.3%、仮設工事22.8%、諸経費10.3%でした。建築系工事の中では外壁関係が49.4%、防水関係が32.0%を占めます。比べている見積もりの構成がこの平均と大きく違う場合は、理由を聞くきっかけになります。

安すぎる見積もりも、確認の対象にする

高い見積もりには誰もが理由を尋ねますが、安い見積もりは歓迎されて、確認がおろそかになりがちです。けれども、必要な数量が抜けていれば工事が始まってから追加費用として戻ってきますし、工程や人員を無理に削っていれば品質や安全に影響します。改正建設業法でも、著しく低い労務費での見積もりや契約を防ぐ仕組みが設けられました。最安値の会社にも、他社と同じ深さで質問することが公平な比較です。

金額差について聞くときの言い回し

「他社と比べて、この項目の金額に差があります。数量・単価・仕様のどれによるものか、内訳で説明していただけますか」「足場を組んだ後に補修数量が増えた場合、どの単価で精算する想定ですか」

見積書の項目ごとの読み方は見積もりを比較するポイント、「一式」表記の確認は見積書で確認したい項目で詳しく扱っています。

施工体制と品質管理は、具体的な答えで採点する

図面の上で虫眼鏡を使って細部を確かめる人の手元
品質管理の評価では、検査の方法や記録の残し方を具体的に聞きます。

施工体制や品質管理の項目は、「しっかりやります」という言葉では点数をつけられません。具体的に何をするのかを聞き、答えの具体性で評価します。

点数をつけやすい質問の例

  • 現場代理人は常駐か。他の現場との兼務はあるか。同規模工事の経験は何件か
  • 工程ごとの自主検査は誰が行い、どんな書式で記録するか
  • 下地補修やシーリングなど、仕上がると見えなくなる部分の写真記録をどう残すか
  • 大規模修繕工事瑕疵保険を使う場合、保険法人の現場検査にどう対応するか
  • 設計監理者の検査で指摘を受けたとき、是正と報告の流れはどうなるか

国交省の案内では、大規模修繕工事瑕疵保険は施工会社が加入するもので、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分などが対象となり、保険期間は対象部分などによって1〜10年とされています。保険を使うかどうかも、評価の材料になります。

検査には、施工会社自身が行う自主検査、設計監理者による検査、瑕疵保険を使う場合の保険法人による現場検査があります。それぞれ誰が、どの段階で、何を見るのかを会社ごとに書き出して比べると、品質管理の厚みの違いが見えてきます。

住民対応と工事後のことも、評価の対象にする

大規模修繕は、住民が暮らしている建物で数か月にわたって行われます。バルコニーの片付け、洗濯物を干せない期間、窓を開けられない日、騒音やにおい。こうした負担をどう知らせ、どう受け止めるかは、施工会社によって差が出やすいところです。

評価では、工事説明会の開き方、掲示板や配布物での工程の知らせ方、問い合わせ窓口と回答までの日数、高齢者や在宅勤務の住民への配慮の例などを聞きます。過去の工事で配布した「お知らせ」の実物を見せてもらうと、説明の丁寧さがよく分かります。

工事後についても、保証書の内容と期間、定期点検の時期と方法、不具合が見つかったときの連絡先を確認します。これらは後で契約書に反映させる内容なので、口頭の説明で終わらせず書面でもらっておきます。工事中の生活への影響は大規模修繕中の生活と、住民への伝え方も参考になります。

住民対応の評価には、理事以外の住民の声を取り入れる工夫もできます。例えばヒアリングの一部を説明会形式にして、希望する住民にも聞いてもらい、感想を集める方法です。採点は評価者が行うとしても、住民が自分の目で説明を聞いた経験は、総会での合意形成に役立ちます。

設計コンサルタントを比べるときの物差し

設計監理方式では、施工会社より先にコンサルタントを選ぶことになります。ここで物差しを間違えると、その後の施工会社選びの公正さにも影響します。

国土交通省が平成30年5月に公表した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」は、管理組合が事前に検討した方がよい点として、設計コンサルタントの業務量が著しく低く抑えられていないか、特に工事監理の業務量が低すぎないかを挙げています。同じ調査では、業務量の内訳は工事監理40.3%、設計31.8%、調査・診断15.2%でした。

評価項目確かめること
業務量業務ごとの人・時間。監理で現場に来る頻度と検査の回数
担当者実際に担当する技術者の氏名・資格・経験。会社の実績と担当者の実績は別物
選定補助の進め方施工会社の候補の集め方、公募の有無、情報管理の方法
利害関係施工会社からの報酬の有無、候補会社との関係の開示
報酬額他社と比べて極端に安くないか。安い場合の理由

コンサルタントの提案書では、会社としての実績件数が大きく書かれていることが多いものです。しかし工事の成否を左右するのは、実際に担当する技術者です。「担当予定の方が監理した物件を、2〜3件教えてください」と頼み、可能ならその物件の管理組合に話を聞いてみると、提案書だけでは分からないことが見えてきます。

国交省の平成29年通知は、格安のコンサルタント料金で受託し、バックマージンを払う施工会社に受注させる事例を紹介しています。コンサル料は「安いほど良い」とは限らないことを、評価の前提として理事会で共有しておきましょう。役割と利害関係の確かめ方は管理会社・施工会社・設計監理の違いで詳しく説明しています。

ヒアリングの進め方と、評価の記録

  1. 評価者を決める理事と修繕委員から評価者を決め、候補会社と利害関係がないことを確認します。
  2. 質問票を事前に送る全社に同じ質問を送り、当日は回答と補足の説明を聞きます。
  3. 時間と順番をそろえる1社あたりの時間を決め、順番はくじなどで決めておきます。
  4. 各自で採点してから話し合う先に意見を出し合うと、声の大きい人の評価に引きずられます。まず各自で採点し、その後に差の大きい項目を話し合います。
  5. 未確認の点を書き出す回答がなかった、資料が足りない項目は「未確認」と明記し、追加で質問します。

記録で気をつけたいのは、「説明が分かりやすかった」という印象と、「現場代理人の常駐を書面で約束した」という事実を分けて書くことです。印象は大切な情報ですが、契約に反映できるのは書面で確認した事実だけです。

採点が大きく割れたとき

評価者によって点数が大きく違う項目は、評価のしかたそのものを見直すサインです。「施工体制」の何を見て点をつけたのかを、それぞれが説明し合いましょう。見ている資料が違っていたり、同じ回答を別の意味に受け取っていたりすることもあります。必要なら、その項目だけ会社に追加の質問をして、同じ情報をもとに採点し直します。

注意点数を合計すれば公平、というわけではありません。評価基準をいつ決めたか、情報が各社にそろって渡っていたか、評価者に利害関係がないかが説明できて初めて、点数に意味が出てきます。

想定例:3社の比較表から選定理由を書く

選定理由は「数量を要項にそろえた再見積もりで、A社との差は100万円。B社は常駐の現場代理人と写真記録の方法を書面で示した。C社とは体制の評価が近いが、500万円安い」のように、金額と評価の両方で書きます。こうしておけば、総会で「なぜ一番安い会社ではないのか」と聞かれても、同じ文章で答えられます。

ここで「再見積もり」と書いたのは、理事会がA社を最初の数字だけで外さなかったからです。数量の違いを指摘して要項どおりの数量で見積もり直してもらったところ、A社の総額は1億2,500万円となり、B社との差は100万円まで縮まりました。そのうえで体制と品質管理の評価の差を重く見て、B社を選んでいます。条件をそろえた数字で比べたことが、選定理由の説得力を支えました。

業者を比較するときの確認リスト

評価の時期評価項目と配点を、見積開封前に決めて記録したか
必須条件許可・実績・保険・要項どおりの提出を確認したか
金額差の理由数量・仕様・範囲・単価・諸経費のどれが原因か分かるか
施工体制現場代理人の常駐と経験を書面で確認したか
品質管理検査の方法と写真記録の残し方を聞いたか
住民対応説明会・お知らせ・問い合わせ窓口を比べたか
保証・点検保証書の内容と点検時期を書面でもらったか
評価者評価者に候補会社との利害関係がないか確認したか
未確認事項未回答の項目を「未確認」と明記し追加質問したか

評価表と選定理由は、総会の議案書に添付できる形に整えておくと、住民への説明と次回の大規模修繕への引き継ぎを一度に済ませられます。

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よくある質問

点数化すれば公平ですか?

点数だけでは十分ではありません。評価基準を決めた時期、各社に同じ情報が渡っていたか、評価者の利害関係、判断理由を説明できることがそろって、はじめて点数に意味が出ます。評価の過程も議事録に残しておきましょう。

金額の配点はどれくらいにすべきですか?

決まった基準はありません。金額を重視しすぎると要項との違いを見落としやすく、軽くしすぎると住民の理解を得にくくなります。金額は別枠で示し、点数と並べて判断する方法も有効です。どちらにしても、配点は見積開封前に決めてください。

ヒアリングに管理会社やコンサルタントが同席してもよいですか?

同席して技術的な補足をしてもらうのは有益です。ただし評価や採点は管理組合の評価者が行い、同席者の意見と組合の判断を分けて記録しましょう。同席者が候補会社と関係を持っていないかも、事前に確認しておくと安心です。

評価表のひな形はありますか?

国が定めた様式はありません。この記事の2段階評価の図やチェックリストを出発点に、組合の事情に合わせて項目と配点を調整してください。判断に迷うときは、国交省が案内する住まいるダイヤルやマンション管理センターの相談窓口で意見を聞くこともできます。

最安の会社を選ばないと、住民に反対されませんか?

反対の声が出ることはあります。だからこそ、金額差の理由と評価の違いを具体的に示すことが大切です。条件をそろえた後の差額、体制や品質管理の違いを並べて説明すれば、「なぜこの会社か」を納得してもらいやすくなります。

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出典・参考資料

写真:Photo by Jakub Żerdzicki on Unsplash、Photo by Nwar Igbariah on Unsplash

本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。