施工会社の選び方
大規模修繕の施工会社は、見積額の安さだけでは選べません。建設業許可や保険、同規模の実績、現場代理人と下請を含む施工体制まで、契約前に管理組合が確かめたい点を、想定例と質問例を交えて整理します。
この記事の要点
- 01工事の条件を先に言葉にし、それに合う会社を探す
- 02許可・保険・実績は書類で確認し、記録に残す
- 03契約相手と現場の体制(下請を含む)を分けて見る
- 04紹介や関係者の利害は隠さず共有し、同じ条件で比べる
この記事の目次

「どこに頼むか」の前に、自分たちの工事を言葉にする
施工会社選びでつまずく組合の多くは、会社を比べ始めた時点で「どんな工事を、どんな条件でやりたいのか」がはっきりしていません。条件があいまいなままだと、各社が自分の得意なやり方で提案してくるため、比べようがなくなります。
国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、大規模修繕の修繕周期は約7割が12〜15年で、戸あたり工事金額は「100〜125万円」の層が最も多いとされています。50戸なら総額で数千万円から1億円規模になる工事です。金額の大きさに見合うだけの準備を、会社探しの前にしておきたいところです。

最初に書き出しておきたい条件
- 建物の規模:戸数、階数、棟数、外壁の仕上げ(タイル張りか塗装か)
- 工事の範囲:劣化診断の結果から、今回やる工事・見送る工事
- 生活への影響:居住中の工事、高齢の居住者や在宅勤務の多さ、店舗・駐車場の有無
- 周辺環境:前面道路の幅、学校や病院との距離、資材置場や仮設事務所を置く余地
この整理は、劣化診断や長期修繕計画の見直しとつながっています。診断結果の読み方は工事内容の記事、進め方の全体像はスケジュールの記事も参考にしてください。
発注方式によって「誰が候補を集めるか」が変わる
設計と施工を分ける設計監理方式なら、施工会社の候補集めや見積依頼は設計コンサルタントが補助するのが一般的です。調査から施工まで1社に任せる責任施工方式なら、管理組合が直接会社を探します。どちらの場合も、最終的に施工会社を決めるのは管理組合です。候補がどこから来たのか、誰が絞り込んだのかを、理事会が把握できる形にしておいてください。方式の違いは管理会社・施工会社・設計監理の違いで整理しています。
施工会社選びが大規模修繕の全体のどの段階にあたるのかは、大規模修繕工事とは?費用相場・周期・進め方の全体像で流れに沿って整理しています。
書類で確かめられることは、書類で確かめる
営業担当の説明がどれほど丁寧でも、許可や保険の有無は話の印象では判断できません。候補を絞る段階で、次の書類を提出してもらうと、後の比較がぐっと楽になります。
| 確認するもの | 見ておきたい点 |
|---|---|
| 建設業許可 | 1件500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事には建設業許可が必要です。許可の業種(建築一式・塗装・防水など)と有効期限を確認します。国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」でも照合できます。 |
| 大規模修繕工事瑕疵保険 | 工事後に欠陥が見つかった場合の補修費用などに備える保険で、加入するのは施工会社側です。国交省の案内では、填補率は事業者へ80%、事業者が倒産した場合などは発注者(管理組合)へ100%とされています。利用できる事業者かを確認します。 |
| 工事経歴 | 戸数・階数・外壁仕様・居住中工事かどうかが近い実績を、竣工年と発注方式つきで出してもらいます。件数の多さより「似た条件」があるかが大切です。 |
| 会社の概要 | 資本金、従業員数、技術者の人数と資格、直近の決算の概要。工期中の倒産リスクを見る材料になります。 |
国交省が平成29年1月に出した通知では、法定福利費(職人の社会保険料にあたる費用)が内訳明示された見積書を参考に、それを適切に含んだ額で契約するよう求めています。見積書にこの項目があるかどうかも、会社の姿勢を見る手がかりになります。
書類だけでは分からないことは、現場で確かめる
候補の会社が今まさに施工している現場があれば、見学を申し込むのも一つの方法です。足場のまわりが整理されているか、掲示物で居住者に工程を知らせているか、職人のあいさつや安全対策はどうか。短時間でも、書類からは見えない会社の「普段の仕事」が伝わってきます。可能なら、その現場の管理組合の役員に、工事中の対応について感想を聞かせてもらえないか相談してみてください。
もう一つ見落とされやすいのが、工期中の経営リスクです。大規模修繕は数か月から1年近くかかることもあり、途中で施工会社が立ち行かなくなると、残工事の引き継ぎに大きな手間がかかります。決算の概要に加え、前払金を支払う場合の保証の有無も確認しておくと安心です。
契約相手と、現場で実際に働く人は違う
管理組合が契約するのは元請の施工会社1社でも、現場では足場、下地補修、シーリング、塗装、防水といった専門工事会社が入れ替わりで作業します。仕上がりを左右するのは、この体制をまとめる現場代理人と、各工程の職人の力量です。
体制について聞いておきたいこと
- 現場代理人になる予定の人の氏名、経験した同規模工事、他の現場との兼務の有無
- 自社の職人で施工する範囲と、専門工事会社に任せる範囲
- 下請会社を選ぶ基準と、長く付き合っている協力会社かどうか
- 工程ごとの自主検査の方法と、写真記録の残し方
- 契約後に担当者や下請が替わる場合の、管理組合への連絡と承認の方法
見積書で安く見えても、現場代理人が複数の現場を掛け持ちする前提になっていると、居住者からの問い合わせ対応や品質確認が手薄になりがちです。金額の差がどこから来ているのかを、体制の面からも確かめてください。
なお建設業法では、元請が一定額以上の下請契約を結んで工事をする場合、下請の会社名や技術者を記載した施工体制台帳を現場に備え、発注者から求められたら閲覧させることになっています。着工後に「どの会社が何を担当しているか」を確認する手段として覚えておくと役立ちます。
ヒアリングでは、営業担当より現場代理人の話を聞く
書類で候補を絞ったら、理事会や修繕委員会でヒアリング(面談)を行います。国交省の平成29年通知でも、候補の会社と個別に面談して絞り込んだ管理組合の取組事例が紹介されています。ここで大事なのは、出席者を指定することです。契約を取る営業担当だけでなく、実際に現場を任される予定の人に来てもらいましょう。
- 同じ質問を全社に用意する事前に質問票を配り、回答時間もそろえます。その場で質問を変えると比較できません。
- 自社の実績を1件説明してもらう似た規模の工事で起きた問題と、その対処を具体的に話してもらいます。
- この建物の弱点を聞く現地を見たうえで、どこに注意が必要と考えたかを尋ねます。見積書を読み込んでいるかが分かります。
- 記録係を決める回答はその場で要点を記録し、後日「言った・言わない」にならないようにします。
「この工事の現場代理人になる方は、どなたですか。工期中、ほかの現場も担当されますか」「足場を組んだ後に外壁の補修箇所が見積数量より増えた場合、単価と承認の手順はどうなりますか」「居住者からの苦情や要望は、誰が何日以内に回答しますか」
回答の中身より、答え方に表れるもの
質問に即答できることが、必ずしも良い会社の条件ではありません。「現地をもう一度確認してから回答します」と持ち帰る会社のほうが、誠実なこともあります。気をつけたいのは、具体的な数字や手順を聞いても「大丈夫です」「お任せください」と抽象的な返事が続く場合です。約束されたことは、後で見積条件や契約書に反映できる形で書面回答をもらいましょう。
2026年9月の公取委命令から考える、選び方の落とし穴
公正取引委員会は2026年9月28日、関東地区(1都6県)のマンション管理組合が設計コンサル業者に委託したうえで発注した大規模修繕工事をめぐり、独占禁止法第3条(不当な取引制限)違反で排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。公表資料によると、違反事業者は実数42社、排除措置命令の対象は38社、課徴金は37社に総額16億3,788万円です。
公表された行為の概要は、設計コンサル業者と施工業者が工事ごとに受注予定者を決め、ほかの施工業者は連絡された見積価格を出す、あるいは見積り合わせに参加しない、というものでした。管理組合から見れば「複数社から見積もりを取って一番安い会社を選んだ」つもりでも、比較そのものが形だけになっていた可能性があるということです。
管理組合が手元でできること
- 候補リストを受け取ったら、各社を候補にした理由と、声をかけたが辞退した会社を書面で報告してもらう
- 紹介や指名だけでなく、公募を併用して候補の入口を広げる
- 管理組合が想定している予算額を知る人を、理事会の中でも限っておく
- 施工会社から設計コンサルタントなどへ、紹介料や手数料の支払いがないかを書面で確認する
公取委は、施工業者がコンサル業者に契約価格の一定割合の手数料等を支払っていた事実も確認し、関係する事業者団体に申入れを行っています。手数料そのものの問題は、次の記事以降で詳しく触れます。
想定例:一番安い会社を選ばなかった理由を、どう説明したか
このとき総会で求められるのは「なぜ一番安い会社ではないのか」という問いへの答えです。条件をそろえた後の金額差、体制の違い、実績の違いを並べた表を議案書に添え、選定の経緯(候補の集め方、辞退した会社の有無、評価の方法)も説明しました。比較表の作り方は業者比較で見るポイントで紹介しています。
この想定例で効いたのは、最安値を「安すぎる」と切り捨てず、条件をそろえて出し直してもらったことです。数量や仕様の差が解消された後も残る金額差なら、それは会社の努力や体制の違いとして評価できます。条件をそろえた結果、順位が入れ替わることもあります。
知り合いや管理会社から紹介された会社を候補にするとき
理事の知り合いの会社、管理会社の関連会社、コンサルタントが推す会社。紹介自体は悪いことではなく、よく知っている会社だからこそ安心という面もあります。ただし、他の会社と同じ書類を出してもらい、同じ質問に答えてもらうことは省かないでください。
マンション標準管理規約(令和7年改正)第37条の2は、役員が自己や第三者のために管理組合と取引をしようとするときなどに、理事会で重要な事実を開示して承認を受けるよう定めています。紹介者と候補会社の関係は、最初の段階で理事会の記録に残しておくと、後から疑念を持たれにくくなります。
管理会社のグループ会社が候補に入る場合も考え方は同じです。日常の管理で建物をよく知っている強みがある一方、管理会社が選定の事務を担うなら、自社グループを比べる立場にもなります。比較表の作成や評価を、理事会や外部の専門家が確認できる形にしておくとよいでしょう。
「紹介者とこの会社のご関係を、議事録に残してよいですか」と一言確認するだけで、住民への説明はずっとしやすくなります。
施工会社を選ぶ前の確認リスト
| 工事の条件 | 規模・外壁仕様・居住中工事・周辺環境を文書にしたか |
|---|---|
| 建設業許可 | 業種と有効期限を確認し、写しを保管したか |
| 瑕疵保険 | 大規模修繕工事瑕疵保険を利用できる事業者か |
| 工事経歴 | 戸数・階数・外壁仕様が近い実績があるか |
| 現場代理人 | 氏名・経験・他現場との兼務の有無を確認したか |
| 下請体制 | 自社施工の範囲と専門工事会社の範囲が分かるか |
| 法定福利費 | 見積書に内訳として明示されているか |
| 紹介の経路 | 紹介者と候補会社の関係を理事会で共有したか |
| 選定の記録 | 候補の集め方・辞退・評価方法を議事録に残したか |
確認できなかった項目は空欄にせず「未確認」と書き、誰がいつまでに確認するかを決めておくと、総会前に慌てずに済みます。
確認メモを開く・印刷する無料修繕工事の費用が気になる方へ
工事項目・数量・単価・諸経費を、無料で確認します。必要な施工と監理は守りながら、理事会で質問すべき点を整理します。
- 確認は無料
- 見積書を送るだけ
- 理事会の判断材料に
よくある質問
大手の施工会社なら安心ですか?
会社の規模は判断材料の一つですが、それだけで工事の質は決まりません。実際の作業は下請の専門工事会社が担うことも多く、現場代理人の経験や体制で仕上がりは変わります。大手でも中小でも、同じ書類と同じ質問で比べることをおすすめします。
地元の小さな会社に頼むのは不安です。
小規模でも同規模の実績があり、瑕疵保険を利用でき、現場代理人が常駐できるなら有力な候補です。一方で工期中の経営悪化に備え、決算の概要や前払金の扱いを確認しておくと安心です。保険の填補率は事業者倒産時に発注者へ100%と案内されています。
知り合いの業者に頼んでもよい?
関係性を理事会で共有し、他社と同じ条件で比較できるようにすることを勧めます。標準管理規約第37条の2は、役員が関わる利益相反取引について理事会での開示と承認を求めています。紹介されたという理由だけで必要な確認を省略しないことが大切です。
施工会社を決めるのは理事会ですか、総会ですか?
候補の絞り込みは理事会や修繕委員会で行い、工事の実施と修繕積立金の取崩しは総会で決議するのが標準管理規約の考え方です(第48条)。総会では、施工会社を選んだ理由と比較の経緯を議案書で説明できるように準備しておきます。
公取委の命令の対象になった会社かどうかは、どこで分かりますか?
公正取引委員会の報道発表資料(2026年9月28日)に、違反事業者と命令の対象事業者が別表として掲載されています。ただし、候補から外すかどうかは組合の事情によるため、判断に迷う場合は公的な相談窓口や専門家に相談してください。
出典・参考資料
- 公正取引委員会|関東地区所在のマンションの大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について(令和8年9月28日) ↗
- 国土交通省|マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について(令和8年9月28日) ↗
- 国土交通省|設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(平成29年1月27日通知) ↗
- 国土交通省|令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査(概要) ↗
- 国土交通省|大規模修繕工事瑕疵保険の概要 ↗
- 国土交通省|マンション標準管理規約(令和7年改正) ↗
写真:Photo by Haewon Oh on Unsplash、Photo by Johnny Ho on Unsplash
本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。