高額な修繕費。そのお金はどこへ?

修繕積立金から支払われる工事費は、施工会社や設計コンサルタントを経て現場に届きます。その流れと内訳を公的な調査で確かめ、2026年9月の公取委の命令と国交省の周知を踏まえて、管理組合が書類と現場で確かめたい点を整理します。

まず押さえたいこと:金額と同じくらい、発注の手続きを見る

この記事の要点

  1. 01工事費の約6割は建築工事、2割強は足場などの仮設
  2. 02設計コンサル業務量の約半分は工事中の工事監理
  3. 032026年9月、公取委が受注調整で命令。国交省も周知
  4. 04選び方・利害関係・情報管理を書類で確かめる
この記事の目次
積み重ねられた日本の一万円札

1億円の工事費は、どこへ向かうのか

大規模修繕の工事費は、区分所有者が毎月積み立ててきた修繕積立金から支払われます。総会で工事と金額を決議すると、管理組合は施工会社と工事請負契約を結び、設計・監理方式であれば設計コンサルタントとも業務委託契約を結びます。支払ったお金は、施工会社から協力会社や職人、資材の購入、足場の設置などに流れていきます。

区分所有者の修繕積立金が管理組合を経て、施工会社、設計コンサルタント、管理会社へ支払われ、施工会社から現場の協力会社・職人・資材・足場へ流れる図
修繕積立金から工事現場までの主なお金の流れ(一般的な設計・監理方式の場合)。

国土交通省の令和3年度調査による総工事金額の内訳を、仮に1億円の工事に当てはめると次のようになります。

区分(令和3年度調査の割合)1億円に当てはめた場合主な中身
建築系工事(60.3%)約6,030万円外壁塗装・タイル・シーリング・防水・鉄部塗装など
仮設工事(22.8%)約2,280万円足場・養生など
諸経費①(9.5%)約950万円現場管理費・一般管理費・法定福利費等
その他・設備・外構(6.7%)約670万円その他工事・設備系工事・外構
諸経費②(0.8%)約80万円大規模修繕瑕疵保険の保険料

割合は四捨五入の関係で合計が100%になりません。また調査の金額は共通仮設費と消費税を含まないため、実際の支払額はこれより大きくなります。それでも、工事費の大部分が外壁・防水などの工事と足場に使われ、会社の経費にあたる部分は1割前後という全体像はつかめます。

なお、管理会社が大規模修繕に関わる形はさまざまで、管理委託契約の範囲で理事会を補助するだけの場合もあれば、設計・監理を受託したり、工事を請け負ったりする場合もあります。どの立場で、どの契約に基づいて報酬を受け取るのかを確かめておくと、お金の流れが見えやすくなります。

テーブルの上に置かれた日本の硬貨と紙幣
積み立ててきたお金が、何に対して支払われるのかを確かめます。

発注方式の違いや、2026年9月の公取委命令を踏まえた発注の注意点の全体像は、大規模修繕工事の全体像をまとめた記事でまとめています。

設計コンサルタントに払う報酬は、何の対価か

国土交通省の令和3年度調査では、管理組合の発注方法は「設計・監理方式」が80.1%で最も多く、「責任施工方式」が12.6%でした。設計・監理方式では、建築士のいる設計事務所などが、調査診断、改修設計、施工会社選定への協力、工事監理を管理組合から受託します。

設計コンサルタント業務量の内訳の横棒グラフ。工事監理47.9%、設計24.3%、調査・診断15.0%、施工会社選定への協力9.1%、長期修繕計画の見直し2.2%、その他1.4%
出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」をもとに作成(業務量は人・時間ベース)。

同じ調査で設計コンサルタントの業務量の内訳を見ると、工事監理が47.9%と最も大きく、設計24.3%、調査・診断15.0%、施工会社選定への協力9.1%と続きます。報酬の多くは、工事が始まってから現場を確かめる仕事の対価だということです。

報酬が安すぎることにも、注意が向けられてきた

国土交通省は平成29年1月に、設計コンサルタントを活用した大規模修繕工事の発注について注意喚起の通知を出しています。平成30年5月の実態調査の公表資料では、利益相反の例として、自社にバックマージン(受注の見返りとして支払われる金銭)を支払う施工会社が受注できるよう不適切な工作を行い、そのために格安のコンサルタント料金で受託して、結果的に管理組合に経済的な損失を与える事態を挙げています。

そのうえで、設計コンサルタントの業務量が著しく低く抑えられていないか、とくに工事監理の業務量が低すぎないかを、発注前に検討すべき点としています。報酬の安さは、それだけで良いこととは言えません。業務内容と業務量に見合っているかを見ます。

2026年9月、公正取引委員会の命令で何が示されたか

2026年(令和8年)9月28日、公正取引委員会は、関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐり、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)に違反する行為があったとして、排除措置命令と課徴金納付命令を行ったと公表しました。対象は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県の工事です。

公表資料によると、命令は2つの事件からなり、それぞれ設計コンサルタント業務を行う事業者1社と、施工業者(一方の事件で36社、もう一方で19社)が対象です。管理組合がその設計コンサルタントに業務を委託したうえで発注する大規模修繕工事について、設計コンサルタントと施工業者の間で受注に関して協力し合う関係を築き、受注予定者を決めていたとされています。設計コンサルタントが業務の過程で得た設計予算などの情報を受注予定者側に提供し、受注予定者の意向を踏まえて業務を行っていたことも示されています。違反行為は、遅くとも令和3年(2021年)の秋以降のものとされています。

ポイント

この事案で問題とされたのは、管理組合の側に立つはずの設計コンサルタントと、受注する側の施工業者の関係です。個々の会社名や工事の詳細は、公正取引委員会の公表資料で確認してください。本記事は、特定の会社や工事の品質について判断するものではありません。

国土交通省が同日に周知したこと

国土交通省は同じ日、マンション管理の関係団体に通知を出し、管理組合向けに次の点を周知しています。

  • 相談窓口:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住まいるダイヤル」(見積チェックサービスも案内)と、マンション管理センター
  • 外部専門家の活用:自治体の専門家派遣制度や相談窓口、マンション管理士・建築士など
  • 設計・監理方式での留意点:設計コンサルタントの中立性を確保し、適正な手続きの下で受注者を選ぶこと
  • 談合違約金特約条項:談合が認められた場合に受注者が違約金を支払う義務を、請負契約に定めておけること(令和7年6月26日付の事務連絡で周知済み)

書類で確かめられること

発注の手続きが適正だったかは、多くの部分を書類で確かめられます。すべての設計コンサルタントや施工会社を疑う必要はありませんが、管理組合として記録を残しておくことは、組合を守ることにもつながります。

確かめること見る書類質問の例
設計コンサルタントの選び方選定の記録、提案書、見積書「業務内容と業務量(人・時間)の内訳を示してください」
利害関係利害関係に関する申告書「見積参加予定の会社との資本・人事・取引上の関係、紹介料等の授受の有無を書面で示してください」
見積参加会社の選び方公募の要項、応募一覧、選考の記録「見積参加会社をどの基準で、誰が選びましたか」
情報の管理見積要項、配布資料の一覧「設計予算(予定価格)は、誰がどこまで知っていますか」
契約の条件工事請負契約書・約款「談合違約金特約条項を入れることはできますか」

国土交通省の改修マニュアル(令和8年3月改訂)は、見積もりを依頼する会社の選び方として、公正さや透明性を確保する上では公募が望ましいとしています。令和3年度調査では、設計コンサルタント業務の発注先の選定方法として「見積合わせ方式」が53.3%、特命随意契約(1社に依頼)が初めての受託とリピートを合わせて16.3%でした。

注意談合違約金特約条項を設ける場合でも、国土交通省の事務連絡は、支払いをめぐる訴訟や不払いのリスクがあるとして、弁護士などの専門家に相談のうえ個別に対応することを勧めています。条項の文言や違約金の割合は、専門家と相談して決めてください。

見積書から見えることと、見えないこと

見積書や比較表からは、金額の配分、数量や単価の根拠、別途工事の有無など、多くのことが読み取れます。一方で、見積書だけでは受注調整の有無はわかりません。各社の見積金額が近いこと自体は、同じ条件で見積もれば自然に起こり得ることで、それだけで不正の証拠にはなりません。

書類で確かめられるのは、手続きが開かれていたか、情報の管理が適切だったか、利害関係が申告されていたか、という「プロセス」です。不自然な点に気づいたときは、自分たちで結論を出そうとせず、相談窓口や専門家に相談してください。

お金が現場に届いているかは、工事中に確かめる

契約金額が適正でも、工事中に必要な人員や工程が確保されなければ、支払ったお金に見合う工事にはなりません。反対に、発注の過程に問題があれば、工事費が割高になるだけでなく、現場に回るお金や工期に無理が生じる可能性もあります。書類の確認と並んで、工事中の確認が欠かせない理由です。

  • 工事監理者の検査が、工程表どおりの時期に行われているか
  • 工程ごとの写真と検査記録が、定例会議で報告されているか
  • 現場代理人が契約時の説明どおりに現場にいるか
  • 実数精算の数量が、図面と写真で報告され、監理者が確認しているか
  • 工事内容の変更が、書面と理事会の承認を経て行われているか

こうした確認は、施工会社を監視するためではなく、管理組合が工事の結果を説明できるようにするためのものです。工事中の品質の確かめ方は工事の品質を守るための記事で、管理会社・施工会社・設計監理の役割の違いは役割の違いの記事で詳しく扱っています。

迷ったら、どこに相談するか

発注の手続きや見積もりの内容に疑問を感じたら、理事会だけで抱え込まず、外部の相談先を使ってください。国土交通省が2026年9月28日の通知で案内している公的な窓口は次のとおりです。

相談先内容連絡先(通知記載)
住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住まいるダイヤル」マンション管理士・建築士などによる助言、見積チェックサービス(無料)03-3556-5147
マンション管理センター建物・設備の維持管理の相談03-3222-1519
お住まいの自治体専門家の派遣制度、相談窓口(自治体により異なる)各自治体の窓口

受付時間などは各窓口のウェブサイトで最新の情報を確認してください。契約上の権利や、すでに締結した契約への対応など法的な判断が必要な場合は、弁護士に相談してください。

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お金の流れを確かめるチェックリスト

支払先施工会社・設計コンサルタント・管理会社への支払いと、その根拠となる契約
工事費の配分建築工事・仮設・諸経費の割合を確認したか
設計コンサルの業務業務内容と業務量(人・時間)の内訳が示されているか
利害関係見積参加会社との関係、紹介料等の有無を書面で確認したか
見積参加会社の選び方公募の有無、選考基準、選んだ人の記録があるか
情報の管理設計予算などの情報を知る人の範囲が決まっているか
契約条件談合違約金特約条項の要否を専門家と検討したか
工事中の確認検査記録・写真・定例会議の報告が届いているか

チェックの結果は議事録に残し、理事が交代しても引き継げるようにしておきます。確認できなかった項目も、その旨を記録しておくことが大切です。

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よくある質問

管理会社やコンサルタントの報酬は、全部不要なのですか?

そうではありません。調査・設計・工事監理などの必要な役務に対する正当な報酬は、工事の品質を守るための費用です。大切なのは、業務内容と費用、利害関係が説明できることです。報酬が極端に安い場合も、業務量が十分か確認してください。国土交通省も工事監理の業務量が低すぎないかを確認点に挙げています。

今回の公取委の命令は、自分たちのマンションに関係がありますか?

対象は関東地区の特定の設計コンサルタントに業務を委託した工事です。該当するかどうかは、公正取引委員会の公表資料で事業者名などを確認してください。該当するかもしれない場合や、契約上の対応を検討する場合は、公的な相談窓口や弁護士に相談することをおすすめします。

見積金額が各社でよく似ていたら、談合を疑うべきですか?

金額が近いことだけでは判断できません。同じ設計図書・仕様書・数量で見積もれば、金額は近づくのが自然です。確かめたいのは、見積参加会社の選び方、設計予算などの情報の扱い、利害関係の申告といった手続きの面です。不自然な点があれば、自分たちで結論を出さず相談窓口に相談してください。

すでに工事が終わっている場合、何か確認できることはありますか?

工事の契約書、見積書、比較表、設計コンサルタントの選定記録、工事中の検査記録や完了図書がそろっているかを確認し、保管しておくことができます。発注の経緯に疑問がある場合や、契約上の対応を検討する場合は、公的な相談窓口や弁護士に相談してください。次回の工事に向けて、選定の手続きを見直すきっかけにもなります。

談合違約金特約条項は、どうすれば契約に入れられますか?

国土交通省は令和7年6月の事務連絡で、マンション修繕工事の請負契約でも、談合が認められた場合に受注者が違約金を支払う特約条項を設定できることを周知し、条項の例を示しています。違約金の割合や文言は個別に決める必要があるため、弁護士などの専門家に相談して、見積依頼の段階から条件として示しておくと進めやすくなります。

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出典・参考資料

写真:Photo by Cullen Cedric on Unsplash、Photo by Franck V. on Unsplash

本ページは一般的な確認の視点を整理した編集部記事です。個別の建物・契約・法的判断の確認を代替しません。法令・規約・契約は最新の資料で確認してください。