独自取材SPECIAL INTERVIEW|修繕工事と、住民のお金

談合の内側にいた人が、
すべてを語った。

「見えているのは、氷山の一角です。」

工事の予算と工期は、どこで決まるのか。
実際にマンション大規模修繕の受注調整に加わっていた当事者が、
業者選定の舞台裏と、住民には見えないお金の流れを語った。

  • 取材・構成:マンション マネジメントナビ編集部
  • 話し手:元・施工会社 営業担当(匿名)
証言を読む

BACKGROUND|2026.09.28

「うちのマンションは関係ない」と、
言い切れますか。

2026年9月28日、公正取引委員会は、関東地区のマンション管理組合が設計コンサル業者に委託して発注した大規模修繕工事をめぐり、施工業者らに排除措置命令・課徴金納付命令を出しました。管理組合が「相見積もりで公平に選んだ」と信じていた工事で、受注する会社はあらかじめ決まっていたと認定されています。

36社+19社2つの設計コンサル業者それぞれと受注調整を行ったと認定された施工業者の数
1都6県対象となった「関東地区」の範囲(東京・神奈川・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬)
2021年秋〜遅くともこの時期から、工事ごとに受注予定者を決めていたと認定

公正取引委員会が認定した「仕組み」

  1. コンサルと1社が「協力関係」を結ぶ工事ごとに、発注情報を得た施工業者がコンサルに受注希望を伝え、その1社が受注予定者になる。
  2. 見積価格は、事前に決まっている受注予定者がコンサルと協議し、見積り合わせに参加する他社が管理組合へ出す見積価格まで決める。
  3. 予算情報が、業者側に流れるコンサルは、業務の過程で入手した管理組合の「設計予算」(発注予定金額)などの情報を受注予定者に提供していた。
  4. 受注後、コンサルへ「手数料等」受注した施工業者が、工事請負契約金額の一定割合に相当する金銭をコンサルに支払っていた事実も確認された。

出典:公正取引委員会(令和8年9月28日)報道発表 ↗/国土交通省 相談窓口の周知等 ↗。本ページでは事業者名を記載していません。

公表資料に書かれているのは「何があったか」まで。
なぜそれが続いたのか。その内側を知る人物に、話を聞いた。

ON THE RECORD

取材は都内の会議室で、約3時間。
話し手の希望で、顔と声は記録に残さない条件で行った。

取材中のテーブル。コーヒーカップとメモ帳が置かれている
テーブルに置かれたICレコーダー
取材メモ用のノート

写真:取材の様子(イメージ)

逆光で顔の見えない話し手のシルエット

PROFILE

Aさん(50代・男性)

首都圏の中堅施工会社で、マンション大規模修繕の営業を約20年担当。見積り合わせへの参加、コンサル業者との窓口を務め、受注調整に加わった経験を持つ。現在は業界を離れている。本人の安全と、関係者の特定を避けるため、氏名・社名・時期の一部を伏せて掲載する。

仮原稿以下の証言部分は、実際の取材内容に差し替える前提の構成見本です。

01CHAPTER

見積もりを出す前に、
勝つ会社は決まっていた

膝に置いた手。話し手は、言葉を選びながらゆっくり話した。

最初に、どうやって受注する会社が決まっていたのか教えてください。

管理組合さんから見れば、公募をして、5社、6社から見積もりが集まって、比較表が出てきて、ヒアリングをして選ぶ。きちんとした手順に見えますよね。でも私たちの側では、公募の案内が出た時点で「この物件はどこが取るか」はほぼ決まっていました。

コンサルの担当者から「今度こういう物件が出る」と話が来る。手を挙げた会社が、その物件の“本命”になる。あとは本命が勝てるように、ほかの会社が見積もりの金額をそろえて出す。私たちは「お付き合い」と呼んでいました。

ほかの会社は、自分が負けるとわかっていて見積もりを出すのですか。

そうです。本命から「この金額で出してください」と数字が回ってくる。本命より少し高く、でも不自然に高すぎない金額です。次の物件では立場が入れ替わる。持ちつ持たれつなんです。

「比較表の数字は、
比較のために作られていた。」

02CHAPTER

管理組合の「予算」は、
最初から業者に知られていた

「予算がわかれば、見積もりはその少し下に合わせればいい」

見積金額は、どうやって決めていたのですか。

一番大きいのは、管理組合さんの予算がわかっていることです。修繕積立金の残高、借入れをするかどうか、理事会がいくらまでなら総会を通せると考えているか。コンサルは組合の内側にいますから、そういう情報が入ってくる。

予算がわかっていれば、見積もりはその少し下に合わせればいい。組合さんは「予算内に収まった」と安心する。でも本当は、競争していればもっと下がったかもしれない。その差がどこに行くのか、住民の方は知りようがありません。

コンサルには、どんな見返りがあったのでしょう。

受注できたら、工事金額の何パーセントかをコンサル側に払う。名目は色々です。組合さんがコンサルに払う設計監理料が相場より安いことがありますが、安い理由はそこにあることが多い。

「コンサル料が安いのには、
安いなりの理由がある。」

03CHAPTER

高い工事費なのに、
現場にはお金が残らない

積み上がる見積書。総額の内訳は、住民には見えにくい。

工事金額が高くなっているなら、そのぶん良い工事になるのではありませんか。

そう思われがちですが、逆のことも多いです。受注するまでに、紹介料や手数料、お付き合いのコストが乗っている。元請の利益も確保しなければいけない。そうすると、実際に足場を組んで、塗って、防水をする下請けに回るお金は細っていきます。

現場は、予算が足りなければ工期を詰めるしかない。人を減らす、乾燥の時間を削る、検査を形だけにする。住民の方が払った総額は高いのに、現場は余裕がない。これが一番つらいところでした。

住民が払うお金と、現場に届くお金(構造のイメージ)
管理組合が支払う工事費
手数料・調整コスト
元請の経費・利益
現場の人・材料・工期

※割合は構造を示すための模式図で、実際の数値ではありません。

「総額が高いことと、
工事が良いことは別の話です。」

04CHAPTER

住民が気づけた
「小さなサイン」

「一番やりにくいのは、自分で質問してくる理事さん」

管理組合の側で、おかしいと気づくことはできたのでしょうか。

気づける場面は、実はいくつもあります。私たちが「やりにくい」と感じた組合さんには、共通点がありました。

  • 01見積もりの金額が、そろいすぎている上位数社の差がわずか、しかも全社が予算の少し下に並んでいる。
  • 02コンサル料が、相場より極端に安い設計監理の業務量に比べて報酬が低すぎる場合は、ほかに収入源がないか確認する。
  • 03公募の条件が、特定の会社に有利資本金・売上・実績件数などの応募条件が必要以上に厳しい。
  • 04質問すると、担当者が答えを濁す「なぜこの会社を推すのか」「ほかの会社の辞退理由は」に具体的な答えがない。
  • 05予算額が、応募前に外に出ている理事会資料や総会議案で、工事予算が早い段階から広く共有されている。

一番嫌だったのは、理事さんが自分で質問してくる組合です。「この単価の根拠は?」「この一式の中身は?」と一つひとつ聞かれると、調整した数字では説明がつかなくなる。

「一番やりにくいのは、
自分の言葉で質問してくる理事さんでした。」

05CHAPTER

それでも今、
話そうと思った理由

「払う側に立って、初めてわかったことがある」

なぜ、この話をしようと思ったのですか。

自分のマンションの修繕の時期が来たんです。理事会で見積もりの比較表を見たとき、見慣れた並び方だと思った。そのとき初めて、払う側に立った。住民の皆さんは、自分の家のことだから一生懸命なんですよ。夜に集まって、分厚い資料を読んで。その真剣さの上に、あの仕組みが乗っていたと思うと、黙っていられなくなりました。

管理組合の方に、伝えたいことはありますか。

業者を疑ってかかれ、とは言いません。ほとんどの職人は真面目に仕事をしています。ただ、「専門家に任せたから安心」ではなく、選び方と金額の根拠を、自分たちで一度確かめてほしい。それだけで、仕組みは動きにくくなります。

「任せきりに
しないでください。
それだけで、変わります。」

WHAT YOU CAN DO

管理組合が、
今日からできる5つのこと

  1. コンサルとの契約内容と報酬を確認する業務範囲と報酬額が見合っているか。施工業者から報酬を受け取らないことを契約書に明記してもらう。役割の違いを読む →
  2. 見積もりは「条件をそろえて」比較する工事範囲・数量・仕様をそろえ、単価と諸経費を項目ごとに並べる。総額だけで判断しない。比較のポイントを読む →
  3. 公募条件と候補の選び方を記録に残す誰が、どの基準で候補を絞ったのか。辞退した会社の理由も確認する。相見積もりの取り方を読む →
  4. 予算額の扱いに注意する発注予定金額をいつ・誰に・どこまで伝えるか、理事会で決めておく。
  5. 第三者の目を入れる施工業者と利害関係のない立場から、見積書と契約条件を確認してもらう。公的な相談窓口も利用できる。

公的な相談窓口:住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)↗/国土交通省 相談窓口・留意点 ↗

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その見積もり、
本当に適正ですか?

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必要な施工と監理は守りながら、理事会で質問すべき点を整理します。

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※工事費や積立金の引き下げ、施工品質、不正の有無を保証・認定するものではありません。

取材について

本インタビューは、話し手の立場・経歴を編集部が確認したうえで掲載しています。話し手の安全と、関係者・管理組合の特定を避けるため、氏名・所属・時期・物件の情報は伏せ、一部の表現を変えています。証言は話し手本人の経験と認識に基づくもので、特定の事業者・工事について不正を認定するものではありません。公表された事実は、公正取引委員会・国土交通省の資料に基づいて記載しています。

すべての管理会社・設計コンサルタント・施工会社に当てはまる話ではありません。個別の工事や契約の判断は、資料と専門家の確認を踏まえて行ってください。編集方針を読む

写真(イメージ):Haroon Niaz、Phil Desforges、dlxmedia.hu、The Ridge Ohio、Luke Miller、Dimitri Karastelev、Markus Spiske、Egor Myznik、Brando Makes Branding(Unsplash)

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