01CHAPTER
見積もりを出す前に、
勝つ会社は決まっていた

最初に、どうやって受注する会社が決まっていたのか教えてください。
管理組合さんから見れば、公募をして、5社、6社から見積もりが集まって、比較表が出てきて、ヒアリングをして選ぶ。きちんとした手順に見えますよね。でも私たちの側では、公募の案内が出た時点で「この物件はどこが取るか」はほぼ決まっていました。
コンサルの担当者から「今度こういう物件が出る」と話が来る。手を挙げた会社が、その物件の“本命”になる。あとは本命が勝てるように、ほかの会社が見積もりの金額をそろえて出す。私たちは「お付き合い」と呼んでいました。
ほかの会社は、自分が負けるとわかっていて見積もりを出すのですか。
そうです。本命から「この金額で出してください」と数字が回ってくる。本命より少し高く、でも不自然に高すぎない金額です。次の物件では立場が入れ替わる。持ちつ持たれつなんです。
「比較表の数字は、
比較のために作られていた。」
02CHAPTER
管理組合の「予算」は、
最初から業者に知られていた

見積金額は、どうやって決めていたのですか。
一番大きいのは、管理組合さんの予算がわかっていることです。修繕積立金の残高、借入れをするかどうか、理事会がいくらまでなら総会を通せると考えているか。コンサルは組合の内側にいますから、そういう情報が入ってくる。
予算がわかっていれば、見積もりはその少し下に合わせればいい。組合さんは「予算内に収まった」と安心する。でも本当は、競争していればもっと下がったかもしれない。その差がどこに行くのか、住民の方は知りようがありません。
コンサルには、どんな見返りがあったのでしょう。
受注できたら、工事金額の何パーセントかをコンサル側に払う。名目は色々です。組合さんがコンサルに払う設計監理料が相場より安いことがありますが、安い理由はそこにあることが多い。
「コンサル料が安いのには、
安いなりの理由がある。」
03CHAPTER
高い工事費なのに、
現場にはお金が残らない

工事金額が高くなっているなら、そのぶん良い工事になるのではありませんか。
そう思われがちですが、逆のことも多いです。受注するまでに、紹介料や手数料、お付き合いのコストが乗っている。元請の利益も確保しなければいけない。そうすると、実際に足場を組んで、塗って、防水をする下請けに回るお金は細っていきます。
現場は、予算が足りなければ工期を詰めるしかない。人を減らす、乾燥の時間を削る、検査を形だけにする。住民の方が払った総額は高いのに、現場は余裕がない。これが一番つらいところでした。
※割合は構造を示すための模式図で、実際の数値ではありません。
「総額が高いことと、
工事が良いことは別の話です。」
04CHAPTER
住民が気づけた
「小さなサイン」

管理組合の側で、おかしいと気づくことはできたのでしょうか。
気づける場面は、実はいくつもあります。私たちが「やりにくい」と感じた組合さんには、共通点がありました。
- 01見積もりの金額が、そろいすぎている上位数社の差がわずか、しかも全社が予算の少し下に並んでいる。
- 02コンサル料が、相場より極端に安い設計監理の業務量に比べて報酬が低すぎる場合は、ほかに収入源がないか確認する。
- 03公募の条件が、特定の会社に有利資本金・売上・実績件数などの応募条件が必要以上に厳しい。
- 04質問すると、担当者が答えを濁す「なぜこの会社を推すのか」「ほかの会社の辞退理由は」に具体的な答えがない。
- 05予算額が、応募前に外に出ている理事会資料や総会議案で、工事予算が早い段階から広く共有されている。
一番嫌だったのは、理事さんが自分で質問してくる組合です。「この単価の根拠は?」「この一式の中身は?」と一つひとつ聞かれると、調整した数字では説明がつかなくなる。
「一番やりにくいのは、
自分の言葉で質問してくる理事さんでした。」
05CHAPTER
それでも今、
話そうと思った理由

なぜ、この話をしようと思ったのですか。
自分のマンションの修繕の時期が来たんです。理事会で見積もりの比較表を見たとき、見慣れた並び方だと思った。そのとき初めて、払う側に立った。住民の皆さんは、自分の家のことだから一生懸命なんですよ。夜に集まって、分厚い資料を読んで。その真剣さの上に、あの仕組みが乗っていたと思うと、黙っていられなくなりました。
管理組合の方に、伝えたいことはありますか。
業者を疑ってかかれ、とは言いません。ほとんどの職人は真面目に仕事をしています。ただ、「専門家に任せたから安心」ではなく、選び方と金額の根拠を、自分たちで一度確かめてほしい。それだけで、仕組みは動きにくくなります。
「任せきりに
しないでください。
それだけで、変わります。」







